吉田沙保里の引退会見に見た超自然体の凄み 名言はなくてもその受け答えが深く刺さった

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最初の注目すべき質問は、「昨年12月の全日本選手権を解説者として放送席から見ていましたが、目の前で伊調馨さんが優勝して東京オリンピックについて言及しましたが、それを見て心は動かなかった?」というもの。別の階級にもかかわらず比べられることが多く、真逆の道を選んだ伊調選手の名前が出たことで、会見場はピリッとしたムードが漂いました。

しかし吉田選手は、「昔から『自分は自分、人は人』と教えられてきましたし、自分自身は『やり切った』という思いが強かったので、心は動かなかったです。伊調馨選手はすばらしいし、ともに仲間として頑張ってきたので、『東京オリンピックを目指す』と馨の口から聞いたとき、率直に『すごいな』と思いました」とあっさりコメント。

メディアや世間がどんなに2人を比べようが、吉田選手にとっては関係なし。本当に「すごい」と思っているだけなのでしょう。吉田さんは、「自分が何をしたいか」「私は何をするべきか?」だけを追求しているため、他人に惑わされることはありません。吉田さんは自分を伊調馨さんだけでなく、同じ階級の選手とすら比較しないのではないでしょうか。

これをビジネスに例えると、「社内の同僚や同業他社の社員と、自分を比較するか」ということ。よく「ライバルがいたほうが実力は伸びる」と言われがちですが、イチロー選手や大谷翔平選手らを見てもわかるように、本当のトップに立つ人は他人との比較をしない傾向があります。

アーティスト、俳優、芸人など、他ジャンルのトップも同様に、「他人と比べた時点で、基準やスキルの尺度がそこにとどまり、成長の幅を自ら狭めてしまう」という感覚の人が多数派。あなたが「ビジネスパーソンとして何かのトップに立ちたい」と思っているのなら、他人の一部を学ぶことはあっても、比較して影響される必要はないのです。

唯一の銀メダルが最も印象に残る理由

次に、気になったのは、今後の活動や東京オリンピックへの関わり方を尋ねる質問への受け答え。

吉田さんは、「コーチの人たちはたくさんいますので、その中でも『私は特に精神的な支えをできたらいいかな』と思っています」と即答しました。すぐに「吉田さんほどの選手が精神面だけ? 技術面は?」という疑問が浮かびましたが、その答えがまたすばらしかったのです。

「(『セコンドに入ってほしいという声もありますが』という声に対して)私はコーチとしての経験は全然なくて。今まで頑張ってこられたコーチもたくさんいますし、迷惑をかけない程度に協力できたらいいなと思っています」

吉田さんは「自分にどんなに実績や影響力があっても、コーチとしては未成熟な状態である」ことを客観視できているのです。これをビジネスシーンに置き換えると、実績や影響力を持つ社員が管理職に抜擢されたとき、「ほかの管理職より自分のほうが未熟」と潔く認められるかどうか。「自分のほうが上」と先人を軽く見ることがないようにしたいところです。

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