吉田沙保里の引退会見に見た超自然体の凄み 名言はなくてもその受け答えが深く刺さった

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だから会見を見ていた多くの人々が、「本当に未練はないのだろう」「悔いがなさそうでよかった。おつかれさま」という気持ちになれたのです。逆に、未練や悔いがある人ほど、節目のときに言葉を連ねて冗長になるなど、「自分に酔っている」という印象を与えてしまいがち。これはビジネスパーソンの異動や退職にも当てはまるので気をつけたいところです。

異例の「家族会見」で見えたロールモデル

会見の最後には、母親の幸代さんが現れて吉田さんに花束を渡しました。さらに、直後の撮影タイムでは、顔がくっつくほど近づいて笑顔のツーショットを披露。母娘ともに終始笑顔で、涙はまったくありません。

吉田沙保里さんというスーパーアスリートが誕生した理由(撮影:今 祥雄)

「本当に仲がいい親子だな」という声が漏れる中、さらに驚かせたのは吉田沙保里さんが退場してから、母と兄の栄利さんが会場に残って異例の「家族会見」が行われたこと。ここにも吉田沙保里というスーパーアスリートが誕生した理由が潜んでいました。

母の幸代さんは、「本当にマスコミさま、日本の各皆さまに、本当にお世話になり、感謝の意を表したいと思ってここに来ました。いつも主人が『いいところで辞めろよ。立つ鳥跡を濁さずだよ』と言っていました。娘はずっとそれを信じてやってきたので、たぶん主人も、『もういいよ』とOKを出してくれたと思います」と家族会見に至る理由を話しました。

一方、兄の栄利さんは、「(周りをキョロキョロ見渡したあと、はにかみながら)司会がいないので、私が……続きまして質疑応答で、私たちが答えたいと思いますので、(手を挙げた記者を見て)どうぞ」と進行役を志願。会場の記者たちをなごませました。

アスリートの家族がメディアに登場すると、「出しゃばり」「みっともない」などと言われがちですが、吉田家に関しては、ほとんどそんな印象がありません。その理由は「家族の仲がいい」というだけでなく、「1人ひとりが周囲を笑顔にさせる気配りの人」だから。

幸代さんも栄利さんも、「出しゃばり」「みっともない」という一部の声を気に病むより、今自分のするべきことに目を向けられる人でした。ここまで読んだ人ならわかるように、母と兄の振る舞いは、吉田沙保里さんがこの日見せたそれと、ほとんど同じだったのです。

これまで吉田さんに関する報道は、“霊長類最強”というフレーズに代表される強さと、明るい性格の裏にある苦悩がフィーチャーされがちでした。しかし、最もすごいのは、「自らの強さや苦悩に押し潰されない人格を形成できた」ことなのかもしれません。その意味で、全国の人々にとって吉田家の子育てがひとつのロールモデルになるような気がします。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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