吉田沙保里の引退会見に見た超自然体の凄み 名言はなくてもその受け答えが深く刺さった

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リオオリンピックは「負けた人の気持ちがよくわかった大会」になった(撮影:今 祥雄)

つねに即答がベースの吉田さんがこの日、最も考えてからコメントしたのは、「獲得した17個のメダルでいちばん印象に残るものは?」という質問。

吉田さんは、「うーん……難しいですけど……2002年の世界選手権からスタートして2016年のリオオリンピックまで世界の舞台で活躍することができたんですけど……どれも印象に残っています」と言葉をつなぎながら、「いちばん近いのもあるかもしれないですけど、リオオリンピックは負けた人の気持ちがよくわかった大会になりました」と答えを導き出しました。

さらに、「今まで世界V16でいちばん高い表彰台に上っていて、『ああやった、勝ててよかった、うれしい』という気持ちしかなかったのが、リオで2番目に上ったとき、『あっ、負けた人ってこういう気持ちだったんだな』と感じましたし、『こういう競い合う仲間がいたから頑張ってこられたんだな』と負けて知ることができたことを思えば、私自身を成長させてくれたと思い出に残っています」とコメント。

吉田さんは数々の栄光よりも、負けてつかんだ唯一の銀メダルを選びました。このコメントから感じるのは、「負けてわかった大事なことがあるから、それを引きずるのではなく、次のステップに生かしていきたい」という前向きな決意表明。「選手としては負けて終わったけど、それを知ったことが指導者としての始まり」という意味なのかもしれません。

ビジネスシーンでも同様に、「負けを知っている経営者や現場責任者ほど頼りになる」「負けを知らないトップはピンチに弱い」と言われるように、今後の吉田さんがますます楽しみになりました。

パワハラ騒動に対する苦しいコメント

もう1つ見逃せない質問がありました。それは昨年の栄和人監督と伊調馨選手によるパワハラ騒動に関する質問。

「どんな思いでいたのか?」という質問に吉田さんは、「ここまで私を世界で活躍する選手に育ててくれた栄監督と、今まで共に頑張ってきた仲間が、昨年のああいう状況になってしまったことはショックでした。真実ではない報道もあったかもしれないけど、そういう中でコメントすることは難しかったです」。

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