──短期的とはいえ、歴史にifを取り入れる意味は何でしょう。
歴史の当事者たちがターニングポイントから見た未来像、いわば「歴史の中の未来」に私たちが関心を寄せるよすがになります。第1次大戦が起こった必然性のなさに着目したクリストファー・クラークは『夢遊病者たち』で、「なぜ」ではなく「いかにして」を問うことで第1次大戦よりもましな「未来の種」が潰された理由を分析しています。
ifを考えると、現在のとらえ方も変わる
──いろんな選択肢があったのにこれですか、という視点ですね。
歴史のifを取り入れるよさは、厳密性ではなく創造性、必然性ではなく偶然性、変わりえた可能性を提示することで、現在のとらえ方も変わるということです。
ビジネスの観点でいえば、企業が経営計画を策定するとき、過去の失敗例に関して「あのとき、こうしていたら状況は改善したのではないか」「想定外の要因は何だったのか」「社内で別の考えを持った人がいて、その線で行けば成功していたのではないか」と再検討することはよくあると思います。これは「歴史の中の未来」とつながります。こうした発想によって、物の見方がより多角的に、豊かになります。
また、先に挙げた架空戦記については、石田あゆう・桃山学院大学准教授が、当時の読者はビジネス書として読んでいたと指摘しています。架空戦記の軍事的戦略はビジネスと相性がいいですし、「24時間戦えますか」と今以上に総力戦を強いられていた人々が、処世術を学ぶ書としても読んでいたというわけです。
「歴史のif」はどんな人が用いても得られるものがある。応用可能性は大きいと思います。
──対象となるifが適切かどうかはどう判断するのでしょう。
このテーマでは、歴史学者のニーアル・ファーガソンが1997年に編んだ『Virtual History』(邦訳なし:編集部注)を参考にしていて、ファーガソンは、当時の人々が真剣に考えた選択肢だという証拠が必要だと考え、紙などの媒体に残された記録に依拠したifに限定すべきだとしています。
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