日本人はもっと「歴史のif」を考えるべきだ 「歴史の中の未来」を考える意義とは

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──イマジネーションの働く範囲が狭まりそうですね。

政治学者、リチャード・ルボウは赤ん坊のときに、家族ともどもナチスに捕まり、たまたま彼だけが生き延びたという経験からか、歴史における偶然性を重視すべきだと考えています。ファーガソンの基準は厳格すぎて、何が起きるかわからない現代社会では思考実験の意味を成さないというわけです。くだけた言い方をすれば、それじゃifのよさがなくなっちゃうじゃん(笑)。

一方で歴史学者、リチャード・エヴァンズは、歴史学の応用で十分で、あえて反実仮想を用いる必要はないという立場です。

文・理系の知見を総動員して歴史のif探りたい

──エヴァンズは、決定論批判で出発したのに、ある選択肢を選べば、それ以外は消えてしまい、決定論と同じだとも言っています。

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それはそのとおり。ただ、それを言ってしまうと、これまた従来の歴史学と同じものになってしまう。

──そこで「社会学」の出番。

エヴァンズの指摘を取り入れながらファーガソンのやりたいことを拡大していきたいと考えていて、その際にマックス・ウェーバーが参考になりました。

ウェーバーは、歴史のifを歴史学的な100%の厳密性で捉えることは不可能なので、ある程度の「客観的な可能性」、言い換えれば「高確率な可能性」があるといえればいい、としています。その可能性を分析する際には、文系的な知見はもちろん、理系的なデータ分析、シミュレーションなどを総動員する必要がある。

大目標である歴史のifとしての「客観的な可能性」探求は歴史学者とも共有できると思う。私一人では手に余るので、本書を契機にそういった機運が高まるとうれしいです。個人的には、ここに示した方法論から、未来小説が社会に与えた影響などを研究していきたいと考えています。

筒井 幹雄 東洋経済 記者

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つつい みきお / Mikio Tsutsui

『会社四季報』編集長などを経て、現職は編集委員。

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