木下サーカスを支える「裏方の力」が凄すぎた 営業や調整のため公演「半年前」に現地入り
たとえば、2018年秋の千葉県柏市での公演では、春先に先乗り隊が柏駅から徒歩7、8分のビルの一室に事務所を開いていた。事務所には大きな神棚が祀られ、壁一面に地図が張られた。地図には公演会場のセブンパークアリオを中心に半径5キロごとに同心円が描かれ、それぞれの圏内の対象人口と営業のターゲットが綿密に記されていた。
この事務所を拠点に、木下サーカスの営業スタッフ10人と、主催者である読売新聞の事業部員2人が営業に飛び回る。新聞販売店の関係者も頻繁に事務所に顔を出す。公演会場から15キロ圏内の対象人口は200万人、20キロ圏は400万人。30キロ圏まで広げると東京都の東半分がすっぽり入り、1000万人を超える。十数名の営業部隊で1000万人を相手にローラー作戦は展開できまい。地元の千葉、埼玉、茨城、東京のどこまで攻めるか、細かくエリアを区切ってプロモーションを仕掛ける。
商品価値は口コミで伝わる「臨場感」
営業活動は、売り込み先に企画パンフレットを送ることから始まる。送付先は、幼稚園、保育園、小・中・高校、大学、子ども会、スポーツ少年団から老人会、飲食業組合、クリーニング組合、商工組合、病院、宗教団体といった団体から一般企業まで幅広い。主催者やスポンサーの関係で、自動車、住宅、メーカー、小売りなどの大手企業の支社や支店にも資料を送る。
ターゲットは、いち早くアプローチする「A」、その次の「B」、「C」の3ランクに分けてあり、営業部員は担当する相手先に電話でアポイントを取って、商談に赴く。団体割引を設定したチケットや、サーカス会場の広告看板などのスペースを売るわけだ。
四代目社長の木下唯志氏は、営業の心がけをこう語る。
「先手、先手を打つのが大事です。柏市での公演は13年ぶりでしたが、前回、お世話になった方々へのご挨拶はもちろん、進化したショーを堪能していただくために営業部隊は一斉にお客さまに向かって動きだします。うちの商品価値は、あのテント空間で命懸けの演技を目の当たりにする『臨場感』です。ビデオで再現できるものではありません。ご覧いただいた方々の心にどれだけインパクトを与えられるか。口コミの力は大きいですね」
唯志氏の長男で、営業部隊を率いる常務の龍太郎氏は、「観客動員の勝負は幕開けからの1週間にかかっている」と言う。
「オープンして、どっとお客さまがいらっしゃれば、口コミで徐々に息の長い集客につながります。ポイントは、第1週の平日のにぎわいです。そこに向かって、新聞社やテレビ局と相談しながら、さまざまな団体、学校、鉄道会社、バス会社、メーカー、コンビニ、店舗……ありとあらゆる方面にサーカスを周知します。地域全体が告知のメディアともいえます。実際に営業をしていて木下家の長い蓄積を感じることはありますね」
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