木下サーカスを支える「裏方の力」が凄すぎた 営業や調整のため公演「半年前」に現地入り

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「戦火で廃虚となった東南アジアにあらゆる国が物資援助をしているのにくらべると、張本人の日本は、戦火で汚しただけ。援助らしい援助はほとんどしていませんね。大きな顔の政治家がぞろぞろ視察に行っても、誰も喜びませんよ。それより、サーカスを通じ、チャリティショーを開いたほうが、よっぽど気がきいていますよ。現地の外交官も民間の“親善使節”の重責を果たしてくれたと喜んでくれています」〔岡山日日新聞(のち廃刊)1969年〕

こうした長い積み重ねのうえに営業の「根」が張られているのである。

命がけのショー、想像を絶する肉体訓練

アーティストと呼ばれる演技者たちは、「一場所、二根」の安定感を背景に「三ネタ」の向上に取り組む。サーカスの肉体訓練は、想像を絶する。一例を挙げると、直径7mの鉄球籠を、バイク3台で水平、垂直、斜めに激走する演技は、とてつもない遠心力がかかり、人間の平衡感覚を狂わせる。トレーニングは三半規管を徹底的にいじめ抜くところからスタートする。空中ブランコやアクロバットもこなす花形座員、高原謙慈氏は述懐する。

「最初は、婦人用自転車に乗って鉄球籠のなかを真横になって、水平にぐるぐる走り続けます。ずーっと左カーブで、漕いで、漕いで、漕ぎまくる。これがシンドイ。20周も回ったら、目まいで、酔って、嘔吐します。疲労困憊で気持ちが悪い。それを1カ月ぐらい毎日やって、吐いて、吐いて、吐きまくる(笑)」

そのうちに独特の感覚がじわじわと芽吹いてくる。

「酔ってふらふらになっているうちに、だんだん鉄球籠の扉とか、網目とかが、ふっと見えるようになってくる。疾走中に籠のなかにつけた番号が読み取れて、安全に止まれるようになったら、バイクに乗りかえて、タテ回りを入れます。最近は、本番中にバイクで走りながら、鉄球籠の網のわずかな破れ目が見えるようになりました。破れ目が内側に折れたら事故の元なので演技後に修復しています」

高原氏は、妻と2人の息子とコンテナハウスで暮らし、テントとともに移動している。ずっと家族一緒でいたいが、3年後、長男が中学に上がれば妻子は神奈川県内の家に移る。父は単身赴任でサーカスを続ける予定だ。命がけのショーのまばゆい光と、舞台裏の営業の奮闘が木下サーカスという大家族的共同体を支えている。

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