プリウスが「PHV」ルックにならなかった理由 デザイン不評だった4代目はどう変わったか

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同時にそれは、先代プリウスとの共通性をも感じさせる。新型プリウスのオフィシャルサイトには、新旧比較のページがあるのだが、そこではマイナーチェンジ前の車種だけでなく、先代まで登場させており、3世代を直接比較できる。

フロントマスクを見比べると、水平・垂直を基調としたディテールは、先代に近いことに気づく。ヘッドランプについては初代から先代まで下端のラインは似ており、マイナーチェンジ前の型で激変したことがわかる。

先代プリウスのユーザーの中で、マイナーチェンジ前のプリウスを見て乗り換えを控えた人に、新型と先代とのつながりを理解してもらうことで、乗り換えを検討もらいたいというメッセージも、このサイトは持っているのではないかという気がしている。

さらにこのサイトではリアエンドの比較もある。こちらは新型で、初代から受け継いできた縦長のリアコンビランプに別れを告げたことがわかる。横長のコンビランプを高い位置に置く手法は、スバルの新型「フォレスター」などにも見られる。安定感をアピールしたという造形の理由も共通している。

ただしこちらについては、伝統を継承するだけでなく、フロントマスクとの整合性を取る意味でも、縦長ランプは守ってほしかったという気がしている。

車体前後のデザインに共通性を持たせると、クルマの形としてのまとまり感が出てくる。しかもこの前後の整合性、プリウスPHVでは実施している。左右に向けて緩くせり上がるランプと、バンパー両端下に向けてハの字を描くキャラクターラインは、前後共通である。

筆者は4代目プリウスの発表直前、「4代目プリウスのデザインはカッコ悪いのか」(2015年11月12日配信)というタイトルの記事でデザインを論じたことがある。読み返すと、伝統の縦長ランプを継承したうえで、空気の流れを整えるべくサイドの面を後端まで延ばし、そこに点灯時に台形を描くことで安定感を表現したランプを組み込んだとデザイナーは述べていた。説得力のあるデザインだったと今も思っている。

消費者の嗜好に合わせ車内もチェンジ

改良を受けた新型プリウスはインテリアにも手が入っている。なによりも目立つのは、前席間のセンターコンソールが白から黒に変わったことだ。マイナーチェンジ前の白いコンソールは、周囲が黒基調だっただけに取って付けた感があった。この面でも万人向けになった。さらに上級グレードはプリウスPHVと同じ縦長ディスプレイを採用。車載専用通信機を全車標準装備とし、コネクテッドサービスも実現した。

今回の変更でプリウスの売れ行きは好転するのではないかと思われる。でもプリウスという車名はラテン語で「~に先立って」という意味であり、先進的なイメージの車種でもある。マイナーチェンジ前のフロントマスクは確かにアクは強かったが、販売台数を稼ぐために万人向けのデザインを与える車種なのかどうかについては議論の余地を残すところだろう。

以前より電気自動車やPHVがメジャーになりつつあって、HVが環境対応車の本命と言いにくい状況になっているのは確かである。一方でプリウスのアピールポイントは燃費・環境性能だけではなく、トライアングルシルエットに代表される独創的なデザインにもある。ベストセラー争いから一歩引いたことを逆に生かし、攻めの一手を感じさせてくれるような造形を披露してほしい。

森口 将之 モビリティジャーナリスト

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もりぐち まさゆき / Masayuki Moriguchi

1962年生まれ。モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書に『富山から拡がる交通革命』(交通新聞社新書)。

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