結果を出す人は「左脳と右脳」を交互に使う 思考の「サンドイッチ構造とキャッチボール」

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ネスカフェアンバサダー

ネスレはインスタントコーヒーを職場で売る仕組みとして「ネスカフェアンバサダー」を実践している。職場の人にアンバサダーと呼ばれるまとめ役になってもらい、まずはインスタントコーヒー(ネスレは「レギュラーソリュブルコーヒー」と呼んでいるが、ここではわかりやすさを優先する)をおいしく入れるマシンを導入してもらう。その際、マシン自体は無料である。

アンバサダーにはネスカフェ(パウダー)の仕入れ、機械への補充、コーヒーを飲んだ人からの代金回収をやってもらう。利用者には、コーヒーマシンでコーヒー1杯飲むごとに、その場に置いてある貯金箱のようなものに決められた代金、たとえば1杯50円を入れてもらう。それをアンバサダーが回収し、在庫がなくなるようであればネスレに追加注文し、その代金を支払う。

まるでアンバサダーがネスレの社員、あるいは代理店のごとく振る舞う。しかも現金での報酬はない。ただ、アンバサダーにはコーヒーマシンのプレゼントや商品の提供といった便益はある。

ネスカフェアンバサダーを生んだ「思考プロセス」

これが、どんなプロセスで完成したかを想像してみよう。ネスレはこれまでコーヒーを、小売店を通じて売っていた。それを直接消費者(ただし企業)に売ろうというのだから、社員は「あれっ」と思う。

トップはなんとか消費者に直接コーヒーを売りたいと思っている。しかし、それを自社の販売網を通じて行っていては効率が悪すぎて、経済性に乗らない。普通なら、この時点で論理が破綻しており、やっぱりダメかとなってしまう。

そこで、それなら顧客の中の誰かに、自社の販売員の代わりをやってもらったらよいとひらめいた。でも、給料を払うようでは、やはり経済性に合わない。それでは、自社のファンで自発的に動いてくれる人を顧客の社内につくったらどうか。しかし、その人は報酬なしで働いてくれるのであろうか。あるいは、社内できちんと代金の回収ができるのであろうか。

こうやって、次々に湧いてくる矛盾や課題を順番に検討していって、さらには現場で実験してみて、出来上がったのが現在のアンバサダー制度であろう。まさに、最初は思いつきから始まった矛盾だらけのアイデアが、検討しているうちに理論武装され、完成されたモデルとなった。

あくまでもこれは私の想像であるが、そんなに違っていないと思う。

内田 和成 東京女子大学特別客員教授、早稲田大学名誉教授

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うちだ かずなり / Kazunari Uchida

東京大学工学部卒業。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了(MBA)。日本航空株式会社を経て、ボストン コンサルティング グループ(BCG)入社。2000 年から2004年までBCG日本代表を務める。2006年度には「世界の有力コンサルタント25人」に選出。
2006年から2022年3月まで早稲田大学教授。早稲田大学ビジネススクールでは意思決定論、競争戦略論、リーダーシップ論を教えるかたわら、エグゼクティブプログラムにも力を入れる。
主な著書に、『仮説思考』『論点思考』『右脳思考』『イノベーションの競争戦略』(以上、東洋経済新報社)、『リーダーの戦い方』(日本経済新聞出版)、『アウトプット思考』(PHP研究所)、『できるリーダーが意思決定の前に考えること』(日経ビジネス人文庫)など、ベストセラー・ロングセラーが多数ある。

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