転落に感電まで、「VR現場教育」の最前線

「命を落とす」研修はどこまで命を守れるか

全身で事故を体験させるアイデアは、取引先から持ちかけられた悩みがきっかけだった。「会社で安全教育を行っているが、どこか他人事という雰囲気だ。一度事故に遭わせたら本気になるのだろうが、どうしたものか」。これが事故の怖さを伝えるVR技術の開発へとつながった。

手袋に付けたパッドから、微弱な電流が流れる(記者撮影)

転落事故以外にも、合計37種類ものシナリオが用意されている。その1つが感電体験だ。分電盤内の配線を触った瞬間、手袋を装着した手に電流が流れる。静電気程度の強さではあるが、火花の散る表現も相まって冷や汗をかく。

別のシナリオでは、トラックから荷物を降ろす際に誤って荷台から転倒し、荷物の下敷きとなり圧死する体験をさせる。足元の板が今度は斜めに傾き、あたかも転倒したような感覚に襲われる。やはり動悸が止まらない。

開発にあたっては、落下の衝撃や電流の強さといった刺激の調節に最も苦労したという。「恐怖心をあおりすぎると、トラウマになってしまう。これまで5000人以上にVRを体験してもらい、最適な刺激を模索した」(松田氏)。同社のVRは電気設備工事会社やプラントメーカーなど、これまで約100社への納入実績がある。

建設業向けのVR事業に参入する企業は、今後も増えていきそうだ。「2019年には、日本進出を本格的に検討しています」。韓国・ソウルに本社を置く、エムラインスタジオ社のキム・ユンピル理事は自信をのぞかせる。

同社は建設現場の安全教育用のソフトウェアを開発しており、転落事故や資材の落下事故などを体験できるVRを展開する。サムスン電子や現代自動車など、韓国の大手企業への採用実績も豊富だ。

建設業において、安全教育はますます重要になっている。2017年以降、建設業の労災発生件数は増加傾向にあるからだ。10月には建設業の死亡災害増加を受け、大阪労働局が緊急事態宣言を発令した。同局管轄地域での事故のうち、7割以上は転落事故だった。

工事量の増加に作業員の高齢化、さらに人手不足に伴い経験の浅い作業員が建設業に従事している。今後も労働災害が増える懸念はくすぶる中、安全教育の重要性は高まる。

アミューズメントの切り口で語られることの多いVRだが、労働災害の防止にも活躍する余地は多い。逆説的だが、命を落とす体験は、いざというときに命を守ることにつながりそうだ。

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