司法試験勉強から引きこもった34歳のリアル ある日、警察官と保健所がやってきた

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卒業後は実家に戻って勉強を続けていた。ところが家で勉強を始めると、宅浪時代のようにうつ状態に見舞われた。

自分を否定して、どんどん身体が動かなくなっていくんです。まずいと思って、自己否定の思考に陥らないようにしていたつもりだったけど陥っていく。同時に、親との関係が悪くなっていきました

父親は大手企業に勤めていたから、それなりにプライドもあったようだ。せっかくいい大学を出たのだから、きちんと就職するべきだと感じていたのだろう。ところが息子は就職を否定する。父としてはそれを自分への否定と感じたのかもしれない。

司法試験の講座を受けたくてもお金が必要。ところが父親は司法試験なんか受けるなと言う。僕のやりたいことを否定されるのがたまらなかった。父はもともと何かあるとすぐ怒鳴るタイプでしたが、僕も負けていなかった。怒鳴り合い、つかみあい、壁に穴もあけて、ドアは3枚くらい破りましたね。それからすぐ両親が家を出て、僕はひとりで暮らすようになったんです」

そこから本格的な“ひきこもり”が始まった。ただ、彼自身はひきこもりだとは思っていなかった。調子がいいときは朝5時に起きて犬の散歩をし、図書館を転々として勉強する。だが、不調な時期はだんだん多くなっていく。

「調子が悪いと、なぜか背広の人が怖い。だから朝出るときも、周りの人に見られないようにマスクで顔を隠す。図書館に行くと、法律書を読まなければいけないと思いつつ心理学の本に手がのびる。そのうち家でやたらと眠るようになりました。ひきこもりは生産性が低いんですよ」

1カ月半くらい起き上がれないことすらあった。調子のいいときにサバ缶などの缶詰を大量に買い込んで、お腹を満たす生活も送った。

衝撃的な出来事でパニック状態に…

親も心配だったのだろう。ある日突然、両親と警察官2名、保健所から2名、計6名が自宅にやってきた。事前に何の連絡もなかったため、木村さんはパニックに陥った。玄関先で怒鳴り合いになり、誰も家に入れずに追い返した。それは彼にとって衝撃的な出来事だった。

「裏で親を操っている人間がいると思ったんです」

それがひきこもりについて詳しい精神科医の斎藤環さんだった。母親が斎藤さんの本を読み、相談に行ったのだ。だが、本人を連れてこないと診ることができないと言われ、途方に暮れて保健所や警察に頼って息子を引きずりだそうとしたのが、ことのてん末。

「その話を聞いて、僕は斎藤先生に文句を言ってやろうと思って乗り込んでいきました。“僕たち家族は終わっているので関わらないでください”と言ったら、先生がひと言、“あなた、ひきこもりです”と。頭に来ましたね。ひきこもりだなんて、イメージが悪い、バカにされていると思った。外に出ることもあるし、勉強もしているのに何がひきこもりだ、と。そうしたら先生は“物理的、空間的じゃなくて社会的ひきこもりです”と。納得はしませんでした」

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