「35歳からガムを噛め」と医師が勧める理由 認知症予防と歯周病の意外に深い関係

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認知症専門医である私から見ても、この運動は成果も出ており、すばらしいと思います。ただ、個人的な感想を言わせていただくと、これでもまだ足りないという印象です。

大人の歯は、親知らずを除いて全部で28本が基本ですから、20本ということは、すでに8本の歯が失われているわけです。

たとえば、あなたの上の前歯が4本、下の前歯が4本なくなっているところをイメージしてみてください。これって「うわぁ、かなりごっそり抜けてるなぁ」という感じではないでしょうか。こんな状態で食事をしても、ものをかんでも、脳にちっとも血流が回らなそうな気がしませんか?

ですから、本気で脳の老化を防ぎたいなら、そして、全身疾患を予防したいなら、「8020」で満足せずに、もっと高いレベルを目指す必要があります。

つまり、「80歳で28本、すべての歯を残す!」という気持ちで、日々の歯のケアを行うべきなのです。

歯周病の発症率が増えていくのは"35歳前後"

そうなると、歯を失わせる原因1位である歯周病の予防が必須となります。歯周病は、日本人の大人のほとんどがかかっている、いわば国民病です。その発症率は35歳前後から上がっていき、40代になる頃には、なんと8割もの人が進行に差はありますが歯周病を発症します。

実は、若い人の口の中にも歯周病菌はたくさんいるのです。それなのに、35歳前後から発症率が増えていくのは、この頃から加齢により免疫力が低下するせいだとする説があります。若い頃は歯周病菌で歯茎に軽い炎症が起こってもたちまち治っていたのに、免疫力が落ちたせいで修復のスピードが追いつかず、歯周病が進行するというわけです。

歯周病は、風邪などと違って自然治癒しませんから、脳の老化を防ぎ、イキイキとした脳の状態を保ちたいなら、35歳からは、それ以前とは意識を変えて、歯のケアをさらに入念にしなければいけません。

今回はいつでもどこでもかむことができる「ガム」をお勧めしたいと思います。

ガムをかむことで、血液を脳に送り込むことができます。これにより、脳を刺激するとともに、冒頭でお話しした‟脳のゴミ“と呼ばれアルツハイマー型認知症の原因となる「アミロイドβ」を押し流すこともできるのです。

よく、スポーツ選手が試合中にガムをかんでいる姿を目にするように、かむことが脳を活性化し集中力を高めることはよく知られています。

また、かむことは、安定した姿勢を保つことにも一役買います。私たちの体は、姿勢のバランスが崩れたときに、無意識に「抗重力筋」と呼ばれる筋肉を働かせてバランスを保ちますが、この「抗重力筋」の1つが、「かむ」ときに使う「咀嚼筋」です。つまり、ふらつかずにいつまでもしっかりと立っているためには、咀嚼筋を鍛えることが欠かせないのです。
ほかにも、「かむ」ことによる効果は、がんや生活習慣病の予防や免疫力アップ、口臭予防、幸せホルモン「セロトニン」の分泌などさまざまなものがあると言われています。

次ページ足りない分の咀嚼回数をガムで補う
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