「35歳からガムを噛め」と医師が勧める理由

認知症予防と歯周病の意外に深い関係

東北大大学院の研究グループが、70歳以上の高齢者を対象に行った調査によると、「脳が健康な人」の歯は平均14.9本でしたが、「認知症疑いあり」と診断された人はたったの9.4本でした。つまり、残っている歯が少ない人ほど、認知症になりやすいことが明らかになったのです。

また、名古屋大学大学院医学系研究科の上田実教授が行った調査によると、アルツハイマー型認知症の高齢者は、健康な高齢者に比べて、残っている歯の本数が平均して3分の1しかなかったと言います。また、歯がないにもかかわらず入れ歯などの補助的な歯を使用していない率が高く、健康な高齢者の半分ほどしかいなかったのです。

さらに、アルツハイマー型認知症の高齢者は、健康な高齢者より、20年も早く歯を失っていたことも明らかになりました。上田教授は、歯が早く失われ、しかも治療もせずに放置しておくと、アルツハイマー型認知症の発症リスクが健康な人の3倍になると結論づけています。

加えて、この研究では、すでにアルツハイマー型認知症を発症している高齢者に関して、失った歯の本数が多い人ほど脳の萎縮度が高いという画像診断結果が出ました。つまり、歯がないとアルツハイマー型認知症を発症しやすいだけでなく、進行しやすいことも明らかになったのです。

事実、私が運営する認知症クリニックの患者さんを見ても、25%は歯が1本もない総入れ歯です。そして、そうした方の多くが、50~60代という早い時期にすべての歯を失っていました。

ひとかみで3.5㎖の血流が脳に送り込まれる

ではなぜ、歯がないことが認知症につながるのでしょうか。

実は、歯でものをかむと、ひとかみごとに脳に大量の血液が送り込まれます。歯の下には「歯根膜(しこんまく)」というクッションのような器官があって、歯はそこにめり込むようにして立っています。かむときは、歯がこのクッションに約30ミクロン沈み込みます。そのほんのわずかな圧力で、歯根膜にある血管が圧縮されて、ポンプのように血液を脳に送り込むのです。その量は、ひとかみで3.5㎖。

市販のお弁当についている、魚の形のしょうゆ入れ、あの小さい容器がだいたい3~3.5㎖サイズなので、かむということは、そのたびに、あの容器一杯の血液をピュッと脳に送り込んでいることになります。ひとかみでこの量ですから、よくかむ人の脳にはひっきりなしに血液が送り込まれて、その間、脳に刺激を受け続けていることになります。つまり、かめばかむほど脳が活性化されて元気になり、どんどん若返るのです。

ところが、歯の本数が少なくなればなるほど、歯根膜のクッションにかかる圧力が減って、脳に送り込まれる血液の量が少なくなります。脳への刺激が減って、脳機能の低下につながるわけです。脳機能の低下は、ヤル気の喪失や、もの忘れを引き起こし、やがては認知症へとつながっていきます。

多くの方は「8020運動」という言葉をご存じでしょう。これは、「80歳になっても、自分の歯を20本残そう」と、厚生労働省と日本歯科医師会が、1989年から始めた運動です。

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