地方銀行買収やリテール再開の可能性はない 米金融大手シティグループ日本代表に聞く

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――海外の企業が日本に投資したり、ビジネスを展開する、いわゆる「アウト-イン」の流れはどの程度ポテンシャルがあるのでしょうか。

海外企業が日本企業を買収する関心が増えており、実際に引き合いも増えてきている。その理由は、日本でもアクティビストの投資家が増えていること、日本企業のバランスシートの質が改善していること、株式の持ち合いが減っていること、コーポレートガバナンスが改善していること。こうしたことで、日本企業の魅力が増してきている。

全体的に、多くの日本企業は流動性が潤沢で、バランスシートも健全なので、どちらかと言えば、売り手というより買い手になるほうが多いと思う。ただ、コングロマリットのような企業だと、資産の一部を売却する事例も出てくると思うので、このあたりを興味深く見守っていきたい。

地方銀行を買うことはない

――シティグループは主要国のビジネスラインとして、リテールと法人部門を展開しています。日本は法人ビジネス1本ですが、今後このビジネスラインが変わる可能性はあるのでしょうか。

かつてシティは世界57カ国で、われわれがコンシューマービジネスと呼ぶリテールビジネスを行っていた。それが現在はアメリカやメキシコ、アジアの12カ国など計19カ国で展開している。私たちが学んだ教訓は、コンシューマービジネスで成功するためにはかなりの規模が必要だということ。規模がかなり大きくないと、コストが高すぎて利益が出ない。したがって、コンシューマービジネスは、規模を十分に獲得できる市場に集中して展開している。

シティグループは日本のリテール部門を2015年に三井住友フィナンシャルグループに売却した(撮影:尾形文繁)

いったんコンシューマービジネスから手を引いてしまうと、一から立て直すのはなかなか難しい。で、質問に答えると、現在のビジネスのストラクチャーを近々変えることはないと思う。今展開している地域のコンシューマービジネスは非常にうまくいっており、新たにそれ以外の地域でコンシューマービジネスを立ち上げることは、今のところはおそらくない。

――日本の地方銀行は低金利や競争激化のせいで、経営的に非常に苦しい状況にあります。地銀買収の考えはありませんか。仮にそういう話が来たら、検討するのでしょうか。

私たちのビジネスはあくまで、大企業や機関投資家など、大きな顧客にサービスを提供することだ。それに対し、日本の地方銀行の最終顧客は、やはりリテールが中心になる。確かに日本の地銀は低金利の環境の中で、なかなか十分なリターンを上げられず、苦しんでいることは私も理解している。しかし、ビジネスがあまりにも異なるので、(地銀を)買わないか、と言われても、おそらく買わないと思う。

――リテールに近い分野として、たとえばウェルスマネジメント・ビジネスの展開も考えうると思います。

会社によってプライベートバンキング(PB)と呼んでいる。シティはさまざまな市場でPBを展開しているが、日本ではやっていない。

おそらく短期的にはPBを日本で展開することはないと思う。理由は2つあって、1つはかなり大変なビジネスであること。専門性も必要であり、日本では大手の信託銀行がこのビジネスを展開していて、われわれが優良なサービスを提供できるかどうかわからない。もう1つの理由は、大手の信託銀行はシティの顧客でもあり、顧客と競合することはなかなか難しい。

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