旧態依然の医療とは違う複合予防施設の正体 北陸で進む挑戦が革命を起こすかもしれない

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その興りは富山県の魚津市からだった。この人口わずか4万3000人の北陸の小都市で、1950(昭和25)年から開業医として地域住民の健康を守ってきた浦田病院。先代の浦田正唯(まさただ)院長は、24時間365日、呼ばれたらいつでも往診し、お産から外科手術に内科診療、時にはお茶の相手まで、あらゆる問題に対応し、医療保険など無い時代、お金のない人からは金銭の代わりに米や野菜のほか、庭石や植木をも受け取ったという赤ひげのごとき“仁”の医療を実践。地域住民たちから信頼を得てきた。

そんな父の背中を見て育った浦田哲郎氏は、父と同じ地域に密着した医療を志し、石川県河内村(現・白山市河内町)にて無医村医療をはじめる。その後、ほどなくして多くの負債を抱えていた富山県・魚津市の浦田病院も継承することになる。高齢者の需要に応えるべく、いち早く河内村のクリニックでは老人デイケアを。魚津市では老人保健施設などの介護保険施設を展開。規模が大きく成長しても自らが先頭に立って24時間対応の訪問診療を含め、地域に根ざした医療を行ってきた。

やがて医療現場の中で介護、寝たきりや認知症などさまざまな現実に触れていくと、高齢化の進む現代社会でのあるべき医療は、病に対して薬を処方するだけではなく、それらを予防しQOL(Quality of Life クオリティ・オブ・ライフ=「生活の質」)を高めていくため一人ひとりの問題点に応じて、適切な医療やサービスを生涯にわたって提供する「統合医療」であることにいきつく。その実践の場所として魚津市に「浦田クリニック/スコール」が誕生したのが、今から11年前のことである。

診療報酬はシビア、薬に頼った進歩のない医療

「予防医療の分野は今でこそ注目されてはいますが、まだまだこの国は医療保険制度に頼りっきりになった薬による対処療法が主流です。病気は予防が大事であることはわかっていても、経済構造ができあがってしまっている以上、国でありほとんどの医師は保険と薬に頼った旧態然とした医療から抜け出せない。魚津の施設を作る時には、ある医師に面と向かって『患者を健康にしてどうするんだ』と言われたこともあります。それだけ診療報酬もシビアで、みんな経営は厳しいんです。

しかし、同じく統合医療を目指している先生たちと出会い話を聞くと、それを実践するための複合施設の必要性をみんなが感じていることに気づきました。なのに形にする先生は誰もいない。保険診療に頼った経営だけでは採算が合いませんからね。このまま現行の保険診療に頼っていても十分な治療はできないし、医療法人の運営としても夢がない。自分で作ることを決めました。私の場合、病院を継いだ時から銀行に多額の借り入れがあったので、すでに借りることに抵抗がなくなっていたということもありますが」

総事業費は17億円。“医療”の部分では通常の保険診療に、鍼灸(しんきゅう)などの東洋医学やヨーロッパの自然療法から米国の最先端医療まで。“運動”ではメディカルフィットネスにプール。“食”ではアンチエイジングカフェやサプリメントショップ。“癒やし”では温浴施設とアロマトリートメントなど、これまで浦田氏が自ら体験した、健康に対するあらゆるアプローチを、患者の予算や嗜好によって享受できる施設が完成した。

施設内に完備されたプールの建設には、健康に対する浦田理事長の熱意が込められていた。(写真はワッツ療法、筆者撮影)

「当初に描いていたのは、フィットネスで運動ができるクリニックでした。プールで水中運動するのがいいこともわかっていましたが、プールを作るとなると建築費が一気に跳ね上がる。悩んだ末、愛媛県の宇和島に水中運動を提唱する釜池豊秋先生に会いに行きました。そこで体験した水中運動のすばらしさに、プールなくしてメディカルフィットネスは実現できないと決意しましたが、釡池先生は糖質制限の先駆者でもあるんです。完全にそちらのほうも洗脳されてしまいまして、その後の栄養指導やカフェの運営に大きく影響することとなりました」

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