ウェブは炎上OKと思う、企業の大いなる誤解 中川淳一郞「2ちゃんねるから学んできた」
中川:女性スタッフが周りのおじさんと同調するんです。さらにこの広告は、女性スタッフの視点もしっかり入っていますから、となる。
治部:女性がいても、かえって始末が悪いんです。むしろ20〜30代男性のほうが、「この広告はマズくないですか?」とジェンダー感覚がしっかりしているので、女性スタッフが現場にいればいいというものでもないですね。
炎上広告が後を絶たないわけ
――女性スタッフがいても、炎上広告作りに歯止めが効きづらいことはわかりました。でも広告の炎上は、かなりの頻度で起きます。どうして何度も起こるのでしょうか?
治部:常識もあって、頭がいいはずの広告代理店の人が、どうして炎上広告を作ってしまうのかということですよね。社内でナレッジや教訓が共有されていないのかしら?
中川:理由の1つ目は、二番手になると、先に売れたものより過激にしてしまうから。2つ目は、カンヌで広告賞を獲りたいと欲を出すクリエーターがいるから。
わかりやすいのは1つ目の理由で、宮崎県小林市の観光PR動画が話題になりましたよね。小林市に住むフランス人男性が、市の紹介をする時に日本語のテロップが出る。最後まで観ると、男性が話すのはその地域の西諸弁で「フランス語じゃなかったのかよ!」というオチ。これがオシャレだと評判を呼んだ。小林市の成功につられて、ほかの自治体がバカなPRを始めてしまった。これがまさに宮城県の例で。
治部:ひねる方向を完全に間違えた。
中川:そう。小林市に勝つにはエロくしようと、壇蜜を亀に乗せてしまう。
治部:壇蜜は宮城県の例だけど、同じようにサントリー「頂」のCMも性行為を連想させるものだったでしょう? 本来サントリーは攻める広告で知られた企業なのに、あれをなぜマスの市場に公開したのかなと思うんですよ。不快に感じる人は見ないでいられるようなチャネルの問題や流通方法はないの? たとえばパスワードをかけるとか。
中川:それはいいアイデア。動画を観る前に「この動画は男の欲望をかなえる卑猥な部分が含まれています。それでも観ますか?」とコメントが流れてくるとかね。
治部:そこまで見る側に意思確認するのなら、私は何も言わないと思う。ビデオ屋さんのアダルトビデオコーナーと同じだもの。よその人がエッチなものを観るのは自由でいいけれど、観たくない人の目に入らないようにしてもらえれば。
あと私が大学で教える時に、授業で一連の炎上CMを私の意見は挟まずに見てもらったんです。「好きですか? 嫌いですか?」と。セックスを連想させるサントリー「頂」のCMは、ほとんどの学生が「これはヤバい」と答えるのですが、なかには「これは男の夢なんです。マーケティングで夢を描くのはいいと思います」という人がいたり、「男性はエッチなものが好きだからいいと思います」という女子学生がいたり、「人間の非常に自然な姿を描いたものだと思います」という高齢男性がいたりして。意見は、実にさまざまなんですよ。
私はジェンダー炎上をなくしたい立場だけど、学生の「これは男の夢なんです」という本音のつぶやきを企業は拾ったほうがいいと思うんですよ。小さな意見をきちんと聞くことで、炎上するものはすべてダメとか、その先にある意見の乖離や二項対立とかにならないで済む気がするんですよね。
(3回目記事につづく)
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