防空識別圏をゴリ押しする、中国のウラ事情 大衆の不満そらし、軍独走、指導部の面子の3点セット

✎ 1〜 ✎ 24 ✎ 25 ✎ 26 ✎ 最新
拡大
縮小

ひと昔の中国といえば、鄧小平の韜光養晦(とうこうようかい)の発想がベースだった。すなわち、韜光養晦とは、光を韜(つつ)み養(やしな)い晦(かく)すという意味であり、日本で言う「能ある鷹は爪を隠す」と同じ発想だ。

力をつけた今の中国は、この鄧小平の発想から一歩進んで「一石を投じて、波紋を見て覇権を強化する」ことを考えている、という。これは、私が懇意にしているチャイナウオッチャーの鋭い見方だ。

抑えきれない民衆の不満

だが、それはそれである。一方で、いまの中国の国内では、国民の共産党一党体制に対する批判の声は、ますます大きくなっている。

この2年から3年、こうしたデモが激増していることも事実だ。いくら抑え込もうとしても、「燎原の火」のように、広がってしまう民衆の不満は抑えきれない。2010年の尖閣諸島をめぐる日本大使館への抗議デモの時も、最後は中国共産党への抗議デモに変質して、政府は急遽、学生のデモを解散させたことは、記憶に新しい。

そもそも、中国の民衆による「民意」と、共産党の「党意」は同じではない。日本人から見ると、中国の動きは一枚岩のように見えるかもしれないが、実は中国のなかには、全く違う意見もあるのだ。ここしばらくの間は、中国において、表に出てくる「世論」を峻別しながら、その一つ一つを注視する必要がある。

「ネット取り締まり」と「ネット暴露」の、いたちごっこ

では、中国の「世論」にいまや欠かせないネットはどうなっているかを解説したい。「中国のネットは、政府にコントロールされているので、一切のSNS(ソーシャルネットワークサービス)は規制されているはず」と考える読者の方は少なくないだろう。なるほど、フェイスブックもツイッターもYouTubeも、Googleも、中国内から外国へは、一般的にはつながらない。

だが、実は若者たちは約100元(1500円位)も出せば、つなぐことのできるソフトを裏から入手、繋ぐ方法を知っている。だから、何のことはない、北京や上海の学生たちは国外の情報をよく知っている。北部アフリカでインターネットからジャスミン革命が起こったように、中国でも政府のコントロールが効かなくなれば、「反体制分子」による抗議デモが頻発しても、何の不思議もないのだ。

中国政府はグーグルの自由な活動を規制するなどしてきたが、それでも世界のネット社会の潮流には勝てなくなってきている。以前ほど強制的な締め付けはできなくなっている。政府が許可しているネットメディア(ウィーチャット等)も解禁されてきたから、ネット社会の存在を無視できなくなっていることは明白である。今後はますますオープンにならざるを得ない。

次ページ部分開放の一方で、恐怖政治も
関連記事
トピックボードAD
マーケットの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT