戦時法制に逆戻り、危うい特定秘密保護法 狙いは日米安全保障の実態報道の制限

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安倍晋三首相は2度目の政権を樹立すると、新憲法に規定された戦後日本の基本的な立ち位置の変更を企図した政策を着々と打ち出してきた。

従来の自民党政権の中でも際立っている憲法改正への意欲、改憲へのハードルを下げるための憲法96条先行改正論のプロパガンダ、そして先行改正論に対し国民の警戒心が高まった後は、ダイレクトな改憲論をいったんは取り下げて、軸足を集団的自衛権行使を可能にする憲法の解釈変更へ移す──いずれも、日本を“第2次世界大戦の敗戦国”から“戦争もできる普通の国”にしたいという安倍首相の志向性と執念を明確に示すものだ。

森大臣の前述の発言が極めて重大なのは、政府が「特定秘密」として指定した情報の中に、政府の施策の違憲性、違法性、国民に対するうそなどを立証する情報が含まれている場合であっても、取材行為それ自体が処罰されることもありうると法案の担当閣僚が明言した点にある。

西山事件では、記者が取材過程で、情報入手ルートだった女性外務事務官との男女関係を利用した点が国家公務員法第111条違反(秘密漏洩のそそのかし)に当たるとされた。

このスクープは、沖縄返還交渉で米国に対してあまりに従属的だった実態を隠したい佐藤栄作政権(当時)が国民にうそをついていたことを明らかにしたものであり、その後、米国での公文書公開や、交渉当時、外務省アメリカ局長だった吉野文六氏の証言によって、密約の存在は明白になった。だが、日本政府はいまだに公式には密約の存在を認めていない。

これらの事実が示しているのは、日米密約の存在を認めることが、日米の安全保障にとってすでに何ら害を及ぼすものではないにもかかわらず、認めたくない事実はあくまで隠蔽しようとする国家権力というものの本質である。

今回の特定秘密保護法は、まさにこうした文脈の中に存在する。

「文脈」とは、第一に、日本政府が、特定秘密保護法によって隠したい情報の最たるものが日米安全保障条約の運用実態であり、隠したい主要な相手が、ほかならぬ日本国民であること、第二に、財政的な苦境から日本が駐留費用を負担することを必要としている米軍と、領土や資源開発をめぐる周辺国との軋轢の高まりから日米同盟の強化を望む日本政府の利害が、足元で一致しているということである。集団的自衛権問題も、まさに同じ文脈の中で浮上している。

特定秘密保護法に対する批判は多い。その中心は、同法が国民の知る権利を侵すという点だが、実は、主に日米同盟による安全保障について報道を萎縮させ、知る権利を制限することこそ真の目的であるといえる。

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