「ウルトラマン」は迷走から脱却できるのか 新生円谷プロ「再出発」への軌跡

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削れるコストもどんどん削っていった。たとえば、都内近郊に分散していたスタジオや倉庫、オフィスなどを集約し年4000万円超のコスト削減を実現した。その中にはウルトラマン生誕の地である世田谷・砧の旧本社も含まれており、社員だけでなく、ファンからも惜しむ声が上がったが、過去のしがらみを断ち切るべく踏み切った。

利益確保を第一に据える吉田TYO社長に対しては、今も抵抗は大きい。TYOが買収した際、「CG全盛の時代に特撮は伝統芸能」と発言したことで、ファンから「ウルトラマンをわかってない」と非難が集中したこともある。さらに大リストラや社内改革に対しても、一部社員からインターネット掲示板の2ちゃんねるに大量の悪口を書き込まれた。

それでも、吉田社長に何ら方針変更の気配はない。「円谷は会社として当たり前のことができていないからダメになった」。一人ひとりが利益を上げることを意識してこそ、ウルトラマンの価値を守り通せる。

同時に、外部への協力も仰いだ。特に力を注いだのが、ウルトラマン関連商品の大半を販売し、円谷プロのロイヤルティ収入の3~4割を依存するバンダイとの関係改善だ。今年1月、バンダイナムコホールディングスに対し円谷プロ株33・4%を譲渡して資本参加してもらうと同時に、3年間の独占商品化権を供与した。「両社の関係は以前よりも密になった」と柴崎誠バンダイ副社長は話す。現在では、バンダイと円谷プロの担当者によるウルトラマンの商品化会議が、2週間に1度のペースで行われるようになっている。

真の巻き返しはむしろこれから

目下の課題は、子供を取り込む新作を早々に送り出すことだ。しかし過去にネクサスの失敗があるだけに、「放送枠を確保するのも大変」(円谷プロの大岡新一社長)という。さらに制作費高騰の問題もある。

もう一つの課題が、今後の海外展開だ。だがこれも一筋縄では行きそうにない。実はこれまで、海外ではウルトラマンビジネスをほとんど展開できないできた。3代目社長の円谷皐氏とタイの円谷チャイヨー(資本関係なし)との間で、ウルトラマンシリーズの著作権譲渡契約があったとし、チャイヨー側が1997年に提訴、円谷サイドの自由が利かなかったからだ。今年2月にタイ王国最高裁判所で円谷プロ全面勝訴の判決が下ったが、これはタイ国内でしか効力を発揮しない。その他の国で同じ内容の訴訟を起こされるリスクはつねに抱えたままなのだ。

TYOが買収した当時、赤字に転落していた円谷プロは、1年で黒字に転換した。だが、もともとロイヤルティ収入だけで十分経営できたはずの会社。ならば、ようやくマトモな体制が整ったにすぎない。真の巻き返しはむしろこれからだ。

中島 順一郎 東洋経済 記者

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なかしま じゅんいちろう / Junichiro Nakashima

1981年鹿児島県生まれ。2005年、早稲田大学政治経済学部経済学科を卒業後、東洋経済新報社入社。ガラス・セメント、エレクトロニクス、放送などの業界を担当。『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、ニュース編集部などを経て、2020年10月より『東洋経済オンライン』編集部に所属

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