北朝鮮が「ベトナム」に急接近しているワケ 経済モデルの視察は表向きの理由にすぎない
ただ、北朝鮮がベトナムのような改革開放路線を本当に受け入れるかどうかについては懐疑的な見方も多い。たとえば北朝鮮から韓国に亡命した太永浩(テ・ヨンホ)元駐英公使は今年5月、北朝鮮指導部が政治的な改革開放につながりかねない大規模な経済自由化に手を出す可能性は低いと述べている。経済の開放は観光産業に限定したものになる、というのだ。
前出のアブラハミアン氏も、北朝鮮指導部はまだ北朝鮮版のドイモイを始める準備は整っていないと話す。「北朝鮮はベトナムから多くを学ぶことができる。しかし煎じ詰めると(経済の自由化は)私有財産制を認め、海外の情報が国内で広まることを意味する。相当に厄介な問題だ」。
北朝鮮が知りたいと思っていることはたくさんある
とはいえ、国家計画経済から市場経済への移行という難題にどう対処するかについて、北朝鮮はベトナムに重要なヒントを探ることができる、といった指摘もある。
NK Pro(北朝鮮ニュース有料版)のアナリストで、北朝鮮経済に詳しいピーター・ウォード氏は、「(ドイモイを始めてからの)過去30年間でベトナムに起きた変化について、北朝鮮が知りたいと思っていることはたくさんある」と語る。「経済特区など海外から投資を呼び込む政策に加えて、食料安全保障、私有財産制度の問題もベトナムはすでに経験済みだ。ベトナムの政策担当者と意見交換するメリットは大きい」。
北朝鮮がベトナムの経済改革に興味を示しているのは現実的にそうするしかないからだ、とする見方もある。
「実は北朝鮮が参考にできるようなモデルはあまり存在しない」と話すのは、オーストラリア戦略政策研究所のシニアアナリスト、フォン・リ・トゥ氏だ。「ベトナムがそれにいちばん近いのかもしれない」。
ベトナム政府は「その気になれば」、北朝鮮と国際社会の仲介役として重要な役割を果たすことも可能だ、とフォン氏は言う。「ベトナムとしては、もちろん手本にされて悪い気はしないだろう。ただ、外交的にはかなりの手腕が必要になる。アメリカとの関係を悪化させるわけにはいかないからだ」。