北朝鮮が「ベトナム」に急接近しているワケ 経済モデルの視察は表向きの理由にすぎない
北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相は今年、忙しく世界を飛び回ってきた。金正恩朝鮮労働党委員長が“引きこもり”の殻を破り、かつての敵国に対して一定の融和姿勢を見せるようになってから、李外相はロシア、イラン、アゼルバイジャン、トルクメニスタンなど各国を行脚している。そして先日、向かったのがベトナムだ。
タイミングも目を引く。金委員長は少し前にキューバのミゲル・ディアスカネル国家評議会議長を平壌に迎え、熱烈歓迎する様子を大々的に宣伝したばかり。北朝鮮にとってキューバは冷戦時代の元同志。30数年ぶりにキューバの国家元首を平壌に招き、杯を交わすことで、旧交を温めた格好だ。
もともとベトナムにシンパシーを感じていた
北朝鮮とベトナムの間にも、もちろん共産主義陣営の同志として古くからの友好関係がある。北朝鮮はベトナム戦争期に、資本主義の手先と化した南ベトナムと戦う北ベトナムを軍事的に支援した。ある専門家によれば、北朝鮮はもともと、ベトナムに対してはキューバと同じくらい強いシンパシーを感じていたという。
「北朝鮮とベトナム共産党の協調路線は1966~1968年に絶頂を迎えた」と、韓国・高麗大学校のバラージュ・サロンタイ教授は語る。「北朝鮮指導部は北ベトナムとキューバを最も親密な友好国と見なしていた。ともに小国ではあるが、武闘派の反米国家であったため、中国や旧ソビエト連邦以上に好ましい存在と考えられていた」。
しかしベトナム戦争が長引くにつれ、北朝鮮とベトナムの友情は損なわれていく。さらに北朝鮮がカンボジアのポル・ポト政権を支え、ベトナムが韓国やアメリカとの関係改善に動き始めたことで関係はますます希薄化。「1990年代以降はベトナムが韓国と経済的な結び付きを強めたことによって、ベトナムと北朝鮮の関係はさらに目立たないものになった」(サロンタイ教授)
ただ専門家によれば、李外相のベトナム訪問は旧交を復活させることだけが狙いではないという。2017年にマレーシアで起きた金正男(キム・ジョンナム)暗殺事件によって冷え込んだ東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国との関係修復に動いているというのだ。ちなみに暗殺事件に関わったとされるベトナム人のドアン・ティ・フォン被告の裁判が現在、進行中である。