北朝鮮が「ベトナム」に急接近しているワケ 経済モデルの視察は表向きの理由にすぎない
スタンフォード大学アジア太平洋研究所のフェローで北朝鮮問題を専門とするアンドレイ・アブラハミアン氏によれば、ベトナム政府は暗殺事件に「極めて強く反発した」。「ベトナム政府は(事件を受けて)北朝鮮外交官のビザ発給を拒み、ハノイにある北朝鮮大使館を事実上の縮小に追い込んできた。ベトナムのIT関連産業で働く朝鮮人労働者に対しても、国外追放や滞在ビザの延長拒否といった措置に出ている」。
「北朝鮮は今、アジア諸国に対し関係修復を図っている」と、アブラハミアン氏は指摘する。「こうした動きは、北朝鮮にとって最重要の友好国である中国に対しては非常に劇的な形で表れた。北朝鮮は暗殺事件でマレーシア、インドネシア、ベトナムに迷惑をかけたため、これらの国々に対しても関係を修復する必要が出てきている」。
アメリカの「圧力キャンペーン」が背中を押した
アジア諸国と北朝鮮を隔てる溝は、アメリカが2017年に対北朝鮮制裁を強化したこともあって一段と深まっている。アメリカは「最大限の圧力」というスローガンを掲げ、ASEAN諸国と北朝鮮との歴史的なつながりにも目を光らせるようになった。アジア諸国が北朝鮮に対する国際制裁の抜け穴になっていると見て、「最大限の圧力」キャンペーンに加わるようアジア諸国を説得するのに相当な労力を費やしてきたのが昨今のアメリカだ。
米朝の間で融和ムードが高まった後も、アメリカは圧力路線を堅持。マイク・ペンス副大統領はこの11月、ベトナムがアメリカの圧力作戦に協力していることに対し、グエン・スアン・フック首相に礼を述べた。
北朝鮮人向けにビジネス研修を行うシンガポールの非政府組織「チョソン・エクスチェンジ」の創設者、ジェフリー・シー氏は、11月にASEAN首脳会議が開かれてからは「北朝鮮への金融制裁が大幅に強化されてきている」と言う。「北朝鮮関連の取引について圧力を強化するよう、アメリカが要請して回っているからだ」。
敵国・中国から身を守るためアメリカを味方につけておきたいベトナムとしては、まだ北朝鮮と積極的に抱き合う気分にはなれないだろう。