北朝鮮が「ベトナム」に急接近しているワケ 経済モデルの視察は表向きの理由にすぎない
ただ、経済開発のモデルという意味では、北朝鮮指導部の関心はすでにほかの地域に移った可能性もある。6月に行われたドナルド・トランプ大統領との首脳会談の前夜、金委員長はシンガポールの高級繁華街を散策し、世の中を驚かせた。金委員長はシンガポールに感動。朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」には翌日、金委員長が「シンガポールの立派な知識と経験に多くのことを学びたい」と語ったという記事が掲載された。
結局のところ、金委員長の心に最も響いているのはシンガポールの「開発独裁」かもしれない。シンガポールだけでなく、1970年代の韓国も開発独裁のおかげで急速な経済発展を遂げたというのが一般的な理解だ。チョソン・エクスチェンジのシー氏によれば、「北朝鮮は経済開発の手本として、シンガポールやスイスのような先進国に目を向けるようになっているし、そのことを隠そうともしていない」。
アメリカへの牽制球なのか?
2018年に入ってから国際社会との緊張が和らいだことで、金委員長には一息つく余裕が生まれた。古くからの友好国との関係は、ここ数年連発してきた核・ミサイル実験のせいで悪化していたが、関係修復を進められる可能性が出てきたということだ。
元CIA分析官のキム氏は「ドアが開いたことで、北朝鮮は各国との外交・経済的な結び付きを強化できるようになった」と話す。「これは『並進路線』(核と経済の同時開発を意味する国家戦略)で掲げた経済建設の具体化につながる動きだ」。
では、北朝鮮の李外相がこのタイミングでベトナムに飛んだ理由とはいったい何だったのだろうか。経済面での協力が1つ。悪化した2国間関係の修復がもう1つ。歴史的な友好関係を再確認する目的も、もちろんある。
だが、アメリカとの交渉が膠着しつつも完全に決裂してはいない状況にあっては、古くからの友好国との関係を見せつけておくことは、北朝鮮にとって有利に働く。つまり、旧友からのちょっとした助けさえあれば北朝鮮は何とか生きていくことができる――そんな事実を再び世界に思い起こさせようとしたのだ。
(執筆:オリバー・ホッサム)
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