北朝鮮が「ベトナム」に急接近しているワケ 経済モデルの視察は表向きの理由にすぎない
アメリカCIA(中央情報局)の元分析官として北朝鮮を担当していたスー・キム氏が言う。「ベトナムのような新興国は経済的にも政治的にも、大国に頼らざるをえない。まだ状況が不透明な中で北朝鮮との関係を性急に前に進めれば、国益に長期的な影響が出るおそれがある」。
韓国との関係のほうが経済的にはベトナムにとってはるかに重要だ、と指摘するのは前出・スタンフォード大学のアブラハミアン氏だ。「韓国は近年、ベトナムに対して多額の資金を投資してきた。また、ベトナム政府は中国に対抗する後ろ盾として、アメリカとも良好な関係を維持したいと考えている」。
「ベトナム的な」経済改革に関心を持つ北朝鮮
「ベトナムにとって大切なのは米韓であり、北朝鮮との関係は慣例的なものでしかない」(アブラハミアン氏)
しかし、前出・チョソン・エクスチェンジのシー氏は北朝鮮とベトナムの関係改善は米韓にとってもメリットがあると話す。なぜなら、「アメリカも韓国も、北朝鮮にベトナムを見習うよう促しているからだ」。
「アメリカは経済的な繁栄と米朝関係の改善を持ち出すことで、北朝鮮に非核化のメリットを説き伏せようとしている。ベトナムに目を向けさせることは、こうした提案が持つ意味を理解させるのに役立つだろう。一方の韓国は、ベトナムのドイモイ(刷新)政策のような経済改革を北朝鮮が検討するようになることを望んでいる」
ドイモイとは、ベトナムが1980年代に打ち出した改革開放政策だ。北朝鮮指導部は共産党一党独裁を維持しながら経済の自由化を進めたベトナムの経済モデルに古くから注目してきたとされる。今年6月には、金委員長が韓国の文在寅大統領との2人きりの会話の中で「ベトナム的な」経済改革に関心を示していたとする韓国メディアの報道もあった。
ベトナム的な経済自由化は、北朝鮮を経済的な孤立から引き出そうと、アメリカが交渉の中で強く売り込んでいるポイントでもある。アメリカのマイク・ポンペオ国務長官は、ベトナムが経験した経済的「奇跡」とアメリカとの関係改善に、北朝鮮は学ぶことができると7月に述べた。