人生100年時代の公的年金保険改革とは何か 2019年年金財政検証のポイントを読み解く

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重厚長大産業の時代は昔の話で、サービス産業が主体の時代に、企業規模を基準にした、社会保険の適用基準はナンセンスだということなのだろう。

さらには最後に、「厚生年金の適用拡大は、『生産性革命』を促す」という点を申し上げて、私の発表を終わりにしたいと思います。
安倍政権では、「人生100年時代」に対応するため、 性別や年齢に関わらず、1人ひとりの人材の質を高める「人づくり革命」や成長戦略の核となる「生産性革命」などにより、成長率のさらなる引き上げを目指しています。
ところで、高齢期の貧困を予防するには、被用者の雇用形態にかかわらず厚生年金を適用して、将来、充実した年金を受け取れることが必要です。そのために、労働者を雇う事業主には、社会保険料の納付が求められています。
換言すれば、労働者を雇用するのであれば、その事業主には、社会保険料を支払えるだけの付加価値を生み出すことを、社会が要請しているのだと思います。
この点からすれば、厚生年金の適用拡大は、事業主に「より高い付加価値を生み出すビジネスモデルへの転換」を求めており、「生産性革命」を促しているといえるように思います。

お説ごもっとも。私も以前、次のようなことを話したことがある。

労働者に、将来、意味のある年金を準備するために、年金保険料の引き上げを決めることは、それに耐えうる企業に、日本の労働者を雇ってもらいたいということであり、それは同時に、それに耐え切れない企業には、市場から退出してもらうことを覚悟することです。
スウェーデンなどで「同一労働、同一賃金」とよく言われるが、あれは非常に怖いこと、生産性が低い企業は撤退してくださいということも意味します。つまり、低い生産性しか持っていない会社は潰れなさいということになる。
潰れて、そこで職を失った労働者を生産性の高い企業あるいは産業に移すことを積極的に展開していくための標語が「同一労働、同一賃金」です。この政策を展開すればものすごい構造転換を伴っていくことになります。そのときに労働者の生活を保障するために、社会保障を使っていくわけです。
社会というのは、児童労働の禁止をはじめとして、ある条件を満たす企業、社会的に定めた一定水準以上の労務コストを負担することができる企業にしか、その社会での存在意義を認めないという判断をしてきたわけです。
2004年改正時に、年金保険料を2017 年に18.3%にまで上げると決めることは、それに耐えうる企業に日本の労働者を雇ってもらいたい、耐えきれない企業にはご退出願いたい、低賃金労働者に依存したビジネスモデルから生産性の高い新しいビジネスモデルに転換してもらいたいということを意味するわけです 。

なお、2018年9月14日の社会保障審議会年金部会で、私は、「適用拡大は正しい意味での成長戦略であり、生産性革命に寄与する」と話している(議事録)。

繰り下げ受給の多様化を模索

  • オプションⅢについて

今の制度は、65歳を基準として、60歳までの繰り上げ、70歳までの繰り下げ受給の制度がある。そのため、60歳から70歳まで自由に受給開始時期を選ぶことができる(「年金を75歳までもらえなくなるって本当?――日本は受給開始を自由に選択できる制度」参照)。

そこで日本年金学会シンポジウムでは、「繰り下げ受給を選択しやすくするために、2分の1繰り下げの試算を行う」ことを求めている。

さらには、国民年金の加入者は、1961年の制度創設時から、20歳から60歳までの者とされてきた(対して、厚生年金保険の加入者は適用事業所に使用される70歳未満の者とされている。なお、下限年齢は設けられていない)。

今は高年齢者雇用安定法が65歳までの雇用義務を企業に課している時代である。そこで、日本年金学会シンポジウムでは現在の40年間から45年間へと国民年金に加入する期間を延ばした財政試算を求めている。

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