人生100年時代の公的年金保険改革とは何か 2019年年金財政検証のポイントを読み解く

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

ここで問題になるのが、基礎年金には給付費の2分の1が国庫負担になっているために、40年から45年に加入期間を延ばすと、新たに1兆円を超える税金が必要になることである。この規模の国庫負担は、今すぐに実現できそうにはない。

そこで、日本年金学会シンポジウムでは、「60歳以上の保険料拠出期間に対応する基礎年金給付には国庫負担を交付しないとした場合の財政見通し」を求めているのである。

ただし、附則として、「オプションⅢにおける保険料拠出期間に関しては、60歳以上の期間については国庫負担割合を当面ゼロとする――消費税率が10%を超える引き上げが当面実現しないとの前提であり、将来実現した際には、60歳以上の期間についても国庫負担割合は50%とする」と記している。

オプションⅢの中では、年金と就業所得が一定水準を超えると年金がカットされる在職老齢年金についても報告されていた。これについては、日本年金学会シンポジウムでは、「65歳以上の在職老齢年金の廃止の財政影響を示してほしい」とまとめられている。

私的年金の未来とWork Longer

「年金学会シンポジウムまとめ」の最後には、私的年金の役割がまとめられている。このパートを報告した谷内陽一氏(りそな銀行りそな年金研究所)は次のように話していた。

私的年金の役割として、従来は「つなぎ」という言葉が用いられていましたし、権丈先生も「つなぎ年金としての私的年金、企業年金の準備が必要」と本の中に書かれていました。しかし、先発完投(=終身給付)が至高とされてきた世界では、「つなぎ」は格下、補欠あるいは二線級に見られがちで、企業年金の関係者はあまり使いたがりません(私もそうです)。
しかし、時代は変わりつつあります。今後の私的年金の役割は、野球で例えるなら「中継ぎ」、それも勝ちパターンで抑えの切り札(公的年金)につなげる「セットアップ」としてとらえるのが適切ではないかと考えます。なお、個人的には中継ぎよりもセットアップのほうがしっくり来ますが、どちらの名称がよいかは、会場の皆さまのご決断に委ねます。
「継投型」についてまとめると、まずは働けるうちはなるべく長く働く(Work longer)、そして私的年金(Private pensions)が中継ぎ(セットアップ)の役割を務め、最後は公的年金(Public pensions)が守護神として締めくくる形になります。
 ​かつてプロ野球の阪神タイガーズには「JFK」という盤石なリリーフ陣がいましたが、私たちの人生後半を支える強力なリリーフ陣は、W.ork longer、P.rivate pensions、P.ublic pensionsの「WPP」の3本柱による継投で備えることが、年金制度における公私の新たな役割分担の姿になるものと考えております。

WPP、はやることを期待したい。

最後に、ネーミングは大切であるという話をしておく。

1961 年にスタートした国民年金は、「福祉年金」という制度を抱えて誕生していた。福祉年金とは、当時すでに高齢であったことなどを理由に国民年金を受け取ることができない人々を救済するために設けられた経過的な制度であった。

しかし、制度発足後しばらくは国民年金の主な受給者は福祉年金だったわけで、どうもその時期、立法者たちは、これを国民年金保険法と呼ぶのに躊躇したようなのである。

そこでこのパートを報告した玉木伸介氏(大妻女子大学短期大学部教授)の言葉を借りることにしよう。

保険という「原理」から出発した説明を行き渡らせるためにも、この際、「保険」の2文字を加えた、「国民年金保険」という名称の効用を考えてもいいのではないでしょうか。
そうすることで、「世代間の不公平」などという非生産的な議論から脱却し、パイでもようかんでもいいのですが、国民所得を生み出す基盤を息長く着実に拡充していくことに国民の変革のエネルギーを集中していくことが、「老後の生活保障」という大目的の達成に資する道であろうと思います。

そのとおりだと思う。

来年、公的年金保険の財政検証が行われる。それは、再来年2019年に行われる年金改革の方向性を知るいちばんの道標となるものである。ここで紹介した日本年金学会シンポジウムまとめ「人生100年時代の公的年金-Work Longer社会に向けた平成16年フレームの進化のために」を参照しながら財政検証を読めば、理解はいっそう深まるものと思われる(日本年金学会シンポジウム「2019年財政検証に向けて」の様子)。

権丈 善一 慶應義塾大学商学部教授

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

けんじょう よしかず / Yoshikazu Kenjoh

1962年生まれ。2002年から現職。社会保障審議会、社会保障国民会議、社会保障制度改革国民会議委員、社会保障の教育推進に関する検討会座長などを歴任。著書に『再分配政策の政治経済学』シリーズ(1~7)、『ちょっと気になる社会保障 増補版』、『ちょっと気になる医療と介護 増補版』など。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事