前田裕二「可処分精神を奪い合う時代が来る」 「個人の熱狂」こそがこの世界を変える

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『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』で語られる言説にはおおむね大変共感するのですが、1つちょっと見方が違うなと思ったのは、「好きなことより得意なことをやれ」という意見です。得意なことでも、それを「仕事にしたい」と思うかどうかはまったく別問題だと思っています。むしろ得意かどうかではなく、「好き」という純粋な気持ちこそ、人間が人間たる上で最上級に尊い精神的な営みだと思うのです。

分散型コミュニティーを作るにも、いかに共感を引き寄せることができるかどうかが大切なわけですが、そのためにはその人がどんな内在的価値を持ち、何に熱中しているのかが重要になるでしょう。得意なこと以上に、好きなことに熱狂している人に、多くの価値が集まる時代になります。

僕の知人には、「古墳が好きで好きでたまらない」という小学校2年生の息子さんを持つ方がいます。息子さんはちょっと変わっていて、突然庭に古墳を作ったり、リュックにつねに分厚い古墳の研究書を入れていたり、一人で奈良へ古墳見学に行ったりするそうです。これがめちゃくちゃ面白いと思うんです。

僕は、今後そういう人にこそ価値がついて「きみの古墳研究にお金を出す!」という熱烈なファンが現れると思います。100万人のファンではなくとも、熱狂的な100人のファンによって生きていける。やはり「好きなこと」を見つけるのは、生存戦略としても大変優れているのではないでしょうか。

経済的結束は瓦解し、文化は残る

――GAFAによって国家そのものが弱まると言われていますが、どうお考えですか。

確かに見方によっては、GAFAは国家よりも多くの情報を横断的に持っていますから、そうかもしれません。しかし、今後はそもそも、国家も企業も、GAFAうんぬんと関係なく弱まる可能性が高い。

ブロックチェーン技術の発芽および発展も影響して、そういった既存の枠組みが相対的に意味を持ちにくくなる可能性があります。国境や企業という線引きを超えて、もっと人々が興味ベースで水平につながって、プロジェクトベースで動くことも増えていくでしょう。

ただし、国という概念は、実は企業が壊れたとしても最後まで残るものかもしれない。それは、国民全体がどこかで必要不可欠だと感じ、誇りを持っている「文化」と国家が密接にひも付いているから。「日本文化が好き」という人は海外にも大勢います。文化にひも付く主体というものは、一定数のファンがつきますし、自律分散型社会になっても生き残るでしょう。

――EUは国家間が経済的に結び付いていますが、これをどう思いますか?

前田裕二氏の新刊『メモの魔力』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

短期的にはいいのですが、長期で見ると、経済や利便性によって結び付いた地域というものは瓦解していくと思っています。そこに確固たる文化があり、ファンのいる企業はずっと残りますが、特にミッションがなく、税金対策や資金調達のために株式化したような、経済活動のための企業はしだいに消えていくでしょう。

ブロックチェーンによって、資金も税金も別のルールで運用できるようになれば、楽しくてワクワクするプロジェクトに気の赴くまま集まって、終われば順次解散すればいいわけです。こうして会社というベースはなくなり、分散型のプロジェクトがメインになっていくとしたらなおさら、GAFAのこれまでの戦い方では通用しない。彼らは衰退の一途をたどることになると思います。

今後、こうしたテックジャイアントと本気で戦って切磋琢磨していくと思うと、本気で、心が煮えたぎってきて、最高に楽しみです。

(構成:泉美木蘭)

前田 裕二 SHOWROOM代表

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まえだ ゆうじ / Yuji Maeda

1987年東京都生まれ。2010年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、外資系投資銀行に入社。2011年からニューヨークに移り、北米の機関投資家を対象とするエクイティセールス業務に従事。株式市場において数千億〜兆円規模の資金を運用するファンドに対してアドバイザリーを行う。その後、0→1の価値創出を志向して起業を検討。事業立ち上げについて、就職活動時に縁があったDeNAのファウンダー南場智子氏に相談したことをきっかけに、2013年5月、DeNAに入社。同年11月に仮想ライブ空間「SHOWROOM」を立ち上げる。2015年8月に当該事業をスピンオフ、SHOWROOM株式会社を設立。同月末にソニー・ミュージックエンタテインメントからの出資を受け、合弁会社化。現在は、SHOWROOM代表取締役社長として、SHOWROOM事業を率いる。

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