三菱地所、上尾マンション「損切り」の顛末 マンション市場で進む「寡占化」と「すみ分け」

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やみくもに土地を仕入れる動きは薄れた。今は駅近など訴求力のある土地に人気が集中し、「建てたくてもよい土地がない」という状況だ。

加えてマンション市場にとって、リーマンショックは「雨降って地固まる」出来事でもあった。回転率を重視し、安値攻勢をかける新興デベロッパーが一掃されたためだ。「売れ残ったマンションが投げ売りされると、エリア一帯がその価格に引きずられてしまった」(別の大手デベロッパー住宅事業担当者)。

その結果、大手デベロッパーを中心とする「寡占化」が進んで価格支配力が高まった。前述の土地不足も重なり、無理に数を追うのではなく、各社は得意なエリアに注力して着実に利益を上げる方針へと舵を切った。こうして今やマンション供給戸数は、リーマンショック前と比べて半分近くにまで落ち込んだ。

浮かび上がる両社の戦略

もともと三菱地所のマンションは都市部が中心で、郊外物件は旧藤和不動産が仕入れた土地を除いて積極的には手がけていない。埼玉県ではさいたま市が「北限」で、上尾はそれを突破した唯一の物件だった。郊外で総戸数183戸ものマンションは販売の長期化が予想され、それに伴う人件費も分譲開始をためらわせた。

上尾の土地は、藤和時代と地所レジ時代の2度にわたって減損している。土地だけでは買いたたかれてしまうため、建物と一緒に売却することはむしろ好都合だった。「あれ(上尾)が藤和不動産時代の最後の土地。やっと処理できた」。ある三菱地所レジデンス幹部はほっとした表情を見せた。

その逆を行くのがタカラレーベンだ。郊外物件を広く展開し、営業力にも定評のある同社にとり、竣工済物件はむしろチャンスに映る。「自社で開発を手がけるほうが利益率は高いが、キャッシュ負担の少なさや物件のラインナップを増やせる利点がある」(タカラレーベン幹部)。

三菱地所レジデンスにとっては郊外の上尾も、タカラレーベンに言わせれば「上野東京ラインが開通したことで、十分通勤圏内となった」。11月にはモデルルームがオープンしたが、現地の販売員は「資料請求が予想以上に来ていて、見学の予約も連日満員だ」とほくほく顔だ。

同社は上尾のほか、過去には仙台市内で飯田グループホールディングス傘下の一(はじめ)建設が施工したマンションも同様に1棟買いしている。

「もはや量を追う時代ではない」と大手デベロッパー各社は口をそろえる。会社ごとの戦略の違いが、今後も浮き彫りになりそうだ。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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