三菱地所、上尾マンション「損切り」の顛末 マンション市場で進む「寡占化」と「すみ分け」

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この地にマンション建設計画が持ち上がったのは、今から10年以上も前のこと。2007年10月、中堅デベロッパーの藤和(とうわ)不動産が上尾市内に約0.7ヘクタールの土地を仕入れたことにさかのぼる。同社のブランド「ベリスタ」名義で分譲を計画し、建設を中堅ゼネコンの新井組に発注し、工事が始まった。

ところが、基礎工事にさしかかった段階でリーマンショックが起き、新興デベロッパーが相次いで破綻。新井組も受注の4割をマンションが占めていたことから、工事代金の滞納や焦げ付きが相次ぎ、2008年10月に民事再生法の適用を申請。このマンションの建設はストップした。

2007年から「塩漬け」だった

藤和不動産も、分譲価格の引き下げや販売長期化のあおりを受けて営業赤字に転落。2009年4月、資本・業務提携を結んでいた三菱地所が救済する形で完全子会社化し、2011年1月には三菱地所の住宅事業部門と合併し、現在の三菱地所レジデンスが誕生した。

今年10月時点の建設現場。工事はまだ初期段階で、マンションの姿も見えない(記者撮影)

合併作業と並行して、建設途中のまま放置されていた上尾の土地を処理すべく、建設会社を新井組から中堅ゼネコンの大末建設に変えて工事を再開した。ところが、またもやアクシデントに見舞われる。「新井組が打った杭が抜けなかった」(三菱地所レジデンス関係者)。

施工不良か杭抜きの技術不足か、東日本大震災の影響かは判然としない。結局、杭は抜けずに計画は中止となり、土地もたなざらしとなった。「気づけば草がぼうぼうと生えていた」(近所に住む男性)。

そして2017年秋、三菱地所レジデンスは、建設会社を中堅ゼネコンの木内建設へと変更し、基礎工事の解体を開始した。この春からは同社のブランド「パークハウス」を冠したマンションの建設が本格的に始まった。藤和不動産が土地を仕入れてから、10年もの時が経過していた。このまま竣工して無事完売かと思いきや、事態は思わぬ展開を見せる。

三菱地所レジデンスにとって頭痛の種だった上尾の土地に、触手を伸ばす会社があった。「上尾のマンション、うちに売ってくれないか」。今年に入り、タカラレーベンの役員が旧知の三菱地所レジデンス役員に「1棟買い」を打診した。

突然の打診に、三菱地所レジデンス内部では慎重な意見も出た。「一度分譲を告知してしまった手前、(自社で)分譲したほうがいいと思った」(三菱地所レジデンス幹部)。だが最終的に同社を後押ししたのは、土地が塩漬け状態だった間に様変わりしたマンション市場だった。

地価と建設費の上昇を受け、マンション価格は右肩上がり。ただでさえ高い買い物がよりいっそう高くなり、顧客の眼は格段に厳しくなった。

「昔は土地を仕入れるのが第一で、どんなマンションを建てるかはその後に決めていた。それでも売れた時代だったんだ。だが今は顧客層を想定し、どんなマンションを建てるかを考えてから土地を仕入れないと、売れるマンションは建てられない」(大手デベロッパー住宅事業担当者)。

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