安息の地か、魔窟か ネットカフェの危うい最新事情

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熾烈さ増す価格競争 上場取り下げの企業も

 マンボーの“価格破壊”が業界に変革をもたらしたことは確かだ。 深夜の売り上げが大きいことに気づいた各社は、「ナイトパック」などの割安価格を打ち出した。東京・蒲田にある「まんが ネット 喫茶いちご」は1時間100円、8時間寝泊りしても800円という超低価格を打ち出した。

 しかし、このような低価格を疑問視する向きもある。業界最大手、ランシステムの奥村国央取締役は「採算に合わないだろう」と見る。平均的な150坪程度の店舗の場合、1時間400~500円の料金で、1日200人もの利用客をこなして、ようやく月々のランニングコストが賄える収益構造だという。

 価格競争だけではない。業界を取り巻く環境は厳しさを増している。

 日本複合カフェ協会によると、現在の市場規模は1971億円。10年後には2倍の4000億円になると予測する。だが、ここに来て新規事業者が続々と参入。紳士服大手「AOKIホールディングス」から分社独立したヴァリックが展開する「快活CLUB」、居酒屋「白木屋」を経営するモンテローザの「wip(ワイプ)」など異業種からの参戦もあり、競争は激化する一方だ。

 出店先の確保も容易ではない。外食産業などに活気が出始めたことを背景に、首都圏では好立地の駅前商業ビルが取り合いになっている。

 この影響をまともに受けたのが、「コミックバスター」を展開するアクロス(大阪府吹田市)である。今年1月に名証セントレックス上場を承認されたが、直後に上場を取り下げた。原田健一社長は「昨年12月の時点で、60店舗のオープン契約残があったが、都内で開店用物件の入手が困難だった」と事情を打ち明ける。業績を下方修正する可能性が出たため、上場を断念したという。

 ネットカフェ各社は、生き残りに懸命だ。ランシステムはメーカーとのタイアップによるパソコンのメンテナンス徹底や、ゲームコンテンツの充実で、利用客の囲い込みを図る。大手のアプレシオは清潔感が漂う店舗を展開、女性客の獲得を狙う。

 コミック卸最大手「春うららかな書房」の道下昌亮社長は、業界の現状について「ビデオレンタルやカラオケ業界と同じ道を歩んでいる」と見ている。これらの業界は、サバイバルゲームを繰り広げた後に誕生したガリバー企業が、健康的なイメージを世間に浸透させた。ネットカフェ業界にも「TSUTAYA」や「シダックス」のようなチェーンが誕生するのか。まずは業界を覆うもやを払わなければならない。

(書き手:梅咲恵司)

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