金持ちには金持ちにしかわからない価値観がある。Keep up with the Joneses という言葉が英語にはある。直訳すると、「ジョーンズ家と肩を並べる」という意味なのだが、 1913年から1940年までアメリカの新聞で連載された同名の漫画が語源だ。隣の「ジョーンズさんち」に負けないように努力する主人公の姿を描いており、ここから、「隣人と張り合って、同じレベルのライフスタイルを維持しようとする」という意味合いで使われている。
「海外にも複数の豪邸を持ち、その費用を会社に払わせていた」などの報道があるが、「日産の顔」である彼が立派な家に住み、各国の社交界でそれなりの暮らしぶりを見せることは日産のブランドイメージにかかわることなのだから、会社が出すのは当たり前だろう、と思い込んだとしても不思議ではない。
実際、たとえば、ファッションブランドのグローバルCEOが派手なパーティを開いてお客をもてなすのはよくある話で、こういう費用はもちろん、会社持ちということになる。海外赴任時の住居や子どもの学費はもちろん会社持ちだし、チャリティへの寄付やチャリティパーティでのオークションへの現物提供なども会社名で行われることも多い。そんなふうに、日産のブランドイメージを維持するために、という名目で、「ジョーンズさんたち」と張り合ううちに、公私の境目がつかなくなってしまったのかもしれない。
法外に膨らむCEOの報酬
前妻が都内で経営していた料理店の出店費用、離婚の慰謝料、結婚式の費用まで、どこまでを自分で出し、どこまでを会社で出させたのかはわからないが、きらびやかな金持ち社会に埋もれるうちに、金銭感覚がマヒしていったに違いない。しかし、掃き捨てるほどの金を持つ人がさらに金を儲けようとするのはなぜか。1978年には、一般の社員の30倍にすぎなかったCEOの報酬は2016年には271倍にまでハネ上がっている。ワシントンポスト紙はトップの報酬が法外に膨らんでいることについて、こう記している。「人々はCEOたちにこう聞く。『その金が何に必要か』と。その答えは『必要ない。でも、ほかのCEOより少ない金である必要もない』だ」。
つまり報酬は自分の価値を体現するものであり、そこで負ければ、自分の能力が劣るということだと考える、負けず嫌いの「肉食系リーダーたち」が張り合うことで、どんどんとその額を釣り上げているということになる。こうした成功者たちは、自分があらゆる特権にふさわしい人間である、と強く感じている人が少なくない。
そもそも、共感力が低く、冷酷な人ほど、リーダーになりやすい。こちらの記事(「理不尽すぎる山根会長が組織を牛耳れた根因」)に詳しく述べたが、組織の長に立つ人には、「マキャベリアン」「サイコパス」「ナルシシスト」という、心理学ではDark Triad(暗黒の三元素)と呼ばれる3つの特質を持った人が相対的に多いといわれている。マキャベリアンとは、個人の野望と利益に固執し、人との関係性より権力や金を優先する、目的のためなら他人を踏み台にする、といった特質で、サイコパスとは反社会的人格のことだ。
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