下駄屋が始めたジャズ・レーベルの痛快物語 大阪・新世界から世界へ

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
一風変わった趣味であればあるほど、ただの趣味で終わらせないという姿勢を貫けば、偏愛の中に経済圏が生まれてくる(写真:vinzo/iStock)

人生100年時代と言われる昨今だが、1つ気になっていることがある。それは人生が長くなっているにもかかわらず、会社の寿命は案外短いということだ。

上の画像をクリックするとHONZのサイトへジャンプします

一般的に企業の寿命は30年とされているから、パラレルキャリアという言葉に注目が集まるのも無理はないだろう。しかし最も重要なのは、キャリアを2つ作ることではなく、どのように持続可能な状態を築けるかという点にある。

大阪の新世界において、下駄屋を営む澤野由明氏。彼は創業100年を超える老舗「さわの履物店」を経営する人物だ。この下駄屋の店主がなぜかジャズ・レーベルを始め、今や世界中に多くのファンを持っているという。本書『澤野工房物語』はこの澤野氏のビジネス群像を描きながら、格好のジャズ入門書としての側面を持ち、さらには多くのビジネスマンの生き方指南書にもなりうる1冊だ。

好きを貫くために必要なこと

下駄とジャズ、この一見無関係に思える2つのキャリアが、交わりそうで交わらない。まず最初に注目したいのが、澤野氏にとって一番好きなジャズを、メインの仕事ではなくサブに位置付けたことだ。サブであったからこそ、ジャズの事業を大きくする必要がなかったし、たくさん売る必要にも迫られることがなかった。だから自分の手の届くサイズ感の中で、プル型の商いを貫けたのである。

無論このやり方は長期戦を強いるが、その時間を耐えることができたのも、下駄屋という生活のベースがあったからにほかならない。好きを貫くためには、お金のための仕事をしなくても済む状態を作ることがマストであるということだ。

また澤野氏が注力したジャンルが、ただのジャズではなく、ヨーロッパのジャズであったこともポイントと言えるだろう。ヨーロッパのジャズとアメリカのジャズでは、同じジャンルとはいえ魅力は大きく異なる。黒人の血と汗が音に滲み出たアメリカの熱いジャズに対して、ヨーロッパのジャズはクラシックを肥料に温室で純粋培養されたアートに近いものであるという。

いわばジャンルのメインストリームではなく、支流のような領域を偏愛する場合には鉄則がある。それは同類を見つけたときに、マウンティングをしてはならないということだ。

次ページジャズ=小難しい音楽というイメージを取り払う
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事