「町のパン屋」は今、ここまで進化している ブームに左右されないパン屋に必要な要素

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一方、住宅街で地元の老若男女に愛されることを目指して店を開いたのが、「グルグルベーカリー」の平田亮氏(45歳)だ。2012年オープンの店は、東急池上線千鳥町駅から徒歩2分ほどのところにある。駅前は商店も少なく、閑静な住宅街といった趣だ。

平田氏がこの町に店を開いたのは、「静かなところでどっしり構えてやりたい」というイメージにぴったりだったからだ。競合店もなく、人通りは意外に多い。もともと横浜の倉庫会社の社員で最初に住んだ社員寮が、同じ沿線にあった。

飼っているネコがのどを鳴らす音が店名に

パン屋に転職してからも東急沿線に住んできたので、なじみがあった田園都市線沿線なども見て回ったが、都内の町はすでにパン屋があったりにぎやかすぎるため断念。そこで土地勘があった池上線沿線を探して、ちょうどよく物件が見つかった現在の場所に決めたというわけだ。

グルグルベーカリーの平田氏(筆者撮影)

「グルグルベーカリー」の名前は、飼っている猫がのどを鳴らす音から付けた。「心地いいときに鳴らす音です。お客さんにのんびり楽しんでいただければ」と平田氏。覚えやすくわかりやすい名前、とも心掛けている。

そう言われてみれば、2000年以降に増えたおしゃれなパン屋は、フランス語を使った難しい名前の店が多いのに対し、今回取材した2店はどちらも、すぐに覚えられるわかりやすい名前になっている。名前の覚えやすさも、これからの町のパン屋に求められる条件の1つかもしれない。

住宅街に中にたたずむ「グルグルベーカリー」。駅からも近い(編集部撮影)

できるだけいろいろな人に来てもらいたいと考えたので、パンの品ぞろえは多い。店内は6坪と広いとは言えないが、常時約100種類を用意。長時間発酵のFバゲットが270円、あんパン110円、クリームパン・メロンパン120円、山食パン1斤280円と、価格は抑えめにしてハードルを低くしている。入りやすい雰囲気づくりにも気を使っており、木を使った温かい空間となっている。取材が終わった16時ごろには、買い物ついでと思われる若い主婦たちが次々と店に自転車を並べ入ってきた。

常時100種類をそろえるというグルグルベーカリー。住宅街にあることもあって、手頃な値段を心掛けている(編集部撮影)

近年、パン業界でも労働時間短縮の潮流が来ているが、「正直に言うと、あまり時短には興味がない。プロが作るしっかりしたものを目指したい」と平田氏は言う。安定した高い品質を維持したいこと、開業志望のスタッフを雇い、独立できるように育てたいと考えていることなどが理由だ。

ただ「古いやり方ですが」と謙遜しながらも、効率的な働き方も工夫している。菓子パンの生地を仕込むのは週2回に抑えて、必要に応じて使う。スタッフ同士が互いの動きに気を配り、「あちらにいるんだったら、こちらの人に道具を取ってもらう」など無駄な動きをしないで済むようにしている。何より早くたくさん作れるようになれば生産性は上がる、という基本を大事にしている。

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