「町のパン屋」は今、ここまで進化している ブームに左右されないパン屋に必要な要素
パンブームが盛り上がって約10年。人気店に行列ができる一方で、町のパン屋は静かに世代交代が進んでいる。こうしたなか、これまでとは違う目的や視点を持った「進化系パン屋」とでも呼べそうなベーカリーが増えている。「町のパン屋」と言えば、たとえばパン屋に生まれ育ったり、ほかのパン屋で修業した人が店を開くイメージだが、進化系は何が違うのだろうか。
東京・馬喰町。問屋やレトロなビルが立ち並んだ下町風情のあるこの界隈に昨年11月にオープンした「ビーバーブレッド」は、オープンした途端、瞬く間にパン好きの間で名が知れわたり、今ではわずか3坪の店に1日に350~500人が訪れるほどになった。この店がほかと違う点。それは、率いる割田健一氏(40歳)が、老舗フランス料理店レカンが経営する「ブーランジェリーレカン」の立ち上げシェフを務めた人物だからである。
銀座を飛び出て馬喰町に進出したワケ
前職や修業を積んだ「ビゴの店」など、これまで銀座一本槍できた割田氏が、なじみの薄い馬喰町に“進出”したのには理由がある。馬喰町には長くパン屋がなく、それを不満に思った町づくりの仕事に携わる知人から声をかけられたのだ。
この町に10年住むという彼は、「スウェットにニット帽でフラッと、焼き立てのバゲットを買いに行きたい」と言い続けていたという。その彼から「自分で店を開くから手伝ってほしい」と言われたとき、「都心にあるレカンとは対極にある。町のパン屋さんは経験がないから面白そう」と割田氏も快諾した。
店を開いてみてからわかった魅力もあった。「この界隈は風情がある。剣道の防具など伝統の道具を作る問屋があるなど、江戸っ子の町的な印象がある」と、割田氏。家賃が意外と安いことに加え、JR総武線や日比谷線など複数路線の駅が近辺に点在しており、交通アクセスもいい。
顧客は近辺で働く人たちのほか、子連れの女性客など主婦層も意外に多い。何しろ店の前と隣には新築マンションがあるのだ。道路が広いため、配達途中のトラック運転手が車を止めて買っていくこともあるという。常連客からは「この町にパン屋をつくってくれてありがとう」と言われるようになった。
これまでパン屋がなかったのだから、それなりの集客は期待できただろう。が、ビーバーブレッドが人気なのにはきちんと理由がある。まずはパンの品質の高さ。加えて種類が多く、小さな店内に常時80種類程度を置く。
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