「町のパン屋」は今、ここまで進化している

ブームに左右されないパン屋に必要な要素

平田氏が一国一城の主を目指してパン業界に転職したのは、食べることが好きで食べものの業界に行きたいと思っていたところ、妻からパンの魅力を教わったことが1つ。もう1つは、ちょうど「PAUL」や「メゾンカイザー」「VIRON」といった、「ブーランジェリー」とフランス語でくくられるおしゃれなパン屋が次々と開業し、魅力を感じたことだ。

28歳で会社を辞めて東京製菓学校へ通ったのち、「できるだけ早く覚えたい」と厳しいことで有名なビゴの店に入り、横浜市内の2店で7年働いた。「動き方、考え方を徹底的に教わった。パンはしっかり焼き切ることが大事なことと結果を出す大切さを学んだ」という。その後、「ラ・ブティック・ドゥ・ジョエル・ロブション」で2年間働き、「おいしくする、見栄えをよくする」方法を学んだ。

町で愛され、飽きられないパン屋とは

今後は、最近客が増えて足が遠のいているお年寄り宅に配達するなど、なかなか店に来られない人に届けるシステムをつくりたいと考えている。また、ドイツパンなどまだ作っていないパンの技術をマスターして並べたい。現在、麹菌とホップを使ったホップ種の山食パンが高齢者を中心に人気が高いことから、日本ならではの麹菌だけで発酵させるパンを作れないかも研究中だという。

新たな挑戦にも意欲的だ(編集部撮影)

2店のシェフは、偶然にもどちらもキャリアの最初がビゴの店という共通点を持つ。ビゴの店の創業者、フィリップ・ビゴ氏は今年9月に亡くなったが、本場フランスの技術を伝えて、世界に誇る日本のフランスパンの高い品質の基礎をつくった功労者である。

そして、兵庫・芦屋市ほかのビゴ氏の店と弟子の藤森二郎氏が東京・神奈川で開くビゴの店は、今も町のパン屋として愛されている。ビゴ氏の孫弟子にあたる2人は、フランスパンはもちろん、あんパンまで並べる多彩な品ぞろえで幅広いファン層を獲得し、新たな町のパン屋の可能性を開きつつある。

労働力不足の今、きつい体力仕事のパン業界でも、労働時間短縮に向けた取り組みは進んでいる。一方で、品質を高く保ち固定客をつかむために、あるいは職人が誇りをもって働くために、妥協できない点もあるのではないだろうか。また、グルメになった日本人に飽きられないためにも、よりおいしくする工夫も必要だ。

今回取り上げた2店は、町に根づくための品ぞろえの豊富さや、良質なパンを提供するための努力を維持しつつ、おしゃれなパンや目新しいパンを生み出す工夫も怠らない。パンブームはまだ当分続きそうだが、いずれブームは終わるときがくる。そんな時代にも生き残るのは、工夫があって地元の人が毎日食べたいと望む、行くと楽しいと思える、こうした進化系の店ではないだろうか。

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