黒字倒産も出るほど深刻な「採用難」への対処 地方・中小企業では人手不足が死活問題に

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もちろん、外国人をすでに多数雇用していて、採用や教育ノウハウを確立している企業はあります。しかし、そのような企業も数々の試行錯誤を経て現在に至っているのが現実です。またその経験値があるのは、外需型の製造業などです。外国人の採用・育成経験が少ない内需型の企業の場合は、これからこのような試行錯誤を覚悟しなくてはいけません。

まず、言葉の壁があります。特に接客・販売やサービスなどの業種では、顧客とコミュニケーションが必要になります。それ以外の業種であっても、日本語で会話をしなければ業務が成立しないケースは多々あります。彼ら彼女らの語学習得までサポートし、戦力化するまで待つ余裕があるかどうかというのが最初の関門です。

礼拝の習慣を尊重する

次に文化・風習の違いというのも想像以上に大きいです。「時間を守る」という日本人にとっては当たり前の常識ですら通用しないことがいくらでもあります。実は言葉の壁よりこちらの壁のほうが高いのです。これも、もちろん教育によって日本のやり方を学んでもらうことは可能ですが、それなりの労力も時間もかかります。

また、宗教や価値観の根本的な違いに関しては、外国人に合わせてもらうのではなく、こちらが合わせなければならないケースもあります。たとえば、外国人を積極的に採用しているある企業では、ムスリム(イスラム教徒)のために礼拝用の部屋を用意しています。その企業では、重要な会議や商談があろうが、彼ら彼女らの礼拝の習慣を尊重し、優先しているそうです。

日本のやり方を一方的に押し付けるだけでは外国人の活用はうまくいきません。多様性を尊重し、本当の意味でのダイバーシティマネジメントを実践できていることが、継続的に外国人を雇用するための必要条件なのです。

そのため、周到な戦略や準備なしに、外国人の労働力に頼ることはリスクを伴います。しかし、明日の事業継続のために即戦力を求めている中小企業には「周到な準備や戦略」のための余裕がありません。そんな状況で外国人を採用したとしても、戦力化に苦労するどころか、かえってトラブルを招く可能性も大きいのです。

誤解してほしくないのですが、私は、「だから外国人は採用しないほうがいい」と言いたいわけではありません。長期的に見れば、国籍に関係なく誰もが活躍できるダイバーシティ経営が実現されていくことが理想だと考えています。

しかし、日本人が集まらないから外国人を雇用するという行き当たりばったりの施策は、会社が抱える本質的な課題を解決するものではありません。その前に、日本人も外国人もイキイキと働くことができる組織づくりに取り組むべきなのです。

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