黒字倒産も出るほど深刻な「採用難」への対処 地方・中小企業では人手不足が死活問題に
人材不足による中小企業の経営危機は、特に地方で顕著です。業績は好調なのに人がいないから倒産・廃業するケースも目立つようになってきました。今の時代ならではともいえる現象が人材不足による黒字倒産です。
以前にも中小企業の黒字倒産はありました。これは、あくまでも売り上げは立っているのに、バブル崩壊以降、貸し渋りが激しくなった金融機関からつなぎ資金が借りられず、キャッシュ不足で起こっていたものです。
しかし、今は、マイナス金利政策や金融庁の方針もあって、地方金融機関は中小企業への融資にも積極的になっています。キャッシュがないから黒字倒産するという状況は回避しやすい状況になっています。ところが今度は人が集まらない。集めてもすぐに辞めてしまう。事業自体は好調であっても、それを担う人材を確保できないことで黒字倒産する中小企業が、特に地方で続出しています。
会社を継ぐ人もいない
今は若者の地元就職志向が強くなっていると言われているものの、若者の数が減っていますから、多少の意識の変化はあっても焼け石に水です。各地の商工会議所や自治体は、地元企業と若者をマッチングするために合同企業説明会の開催やインターンシップ制度の導入などを進めていますが、この危機を根本的に解消するには至っていません。
もう1つ、後継者不足という問題もクローズアップされています。中小企業庁が2018年1月に発表した「中小企業・小規模事業者政策について」によると、今後10年の間に70歳を超える団塊世代の中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人に上り、そのうち約半数の127万社(日本企業全体の約3分の1に相当)に後継者がいません。
現状を放置すると、中小企業廃業の急増により、2025年ごろまでに約650万人の雇用、および約22兆円のGDPが失われる可能性があるとされています。この事業承継の問題も特に地方において深刻です。経営者の子どもたちはすでに都市部で会社員として働いていることが多く、経営者自身、安定したサラリーマン生活を捨てさせてまで、衰退が進む地方で会社を継がせようとは考えないケースが多くなっています。子どもたちもあえて継ごうとはしません。
その結果、業績は好調なのに廃業を選択する中小企業がすでに続出しており、今後10年間も驚くべきペースで増えていくと見られているのです。
政府は、後継者が受け取る株式にかかる税金を今後10年間は免除する政策などを進め、事業承継・M&Aビジネスも活況を呈していますが、事態の根本的解決につながるかどうかは不透明です。
これらの事実や見通しが示しているのは、もはや目先の業績が好調なだけでは、中小企業には人が集まらないという現実です。
だからこそ、「この会社で働きたい」「この会社の経営を継ぎたい」と感じさせる魅力的な組織づくりが中小企業にとっては喫緊の課題なのです。個々の企業がこの課題を克服することが、今後の日本経済の浮沈を左右するといっても決して過言ではないのです。
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