日本から「ゲイツ」「ベゾス」が生まれない理由 「IT遅れ」日本の学校はシアトル流教育に学べ

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この学校の授業では、パソコンの使い方を理解したり、ネット上の情報をただ暗記したりするだけなく、そこで得た知識を日々の体験に生かすことに価値を置いていた。

たとえば、歴史の授業ではロールプレイの方法を用い、歴史の中の人物になる。その人物になることで、よりその時代に生きる人々の気持ちを理解することが可能になる。そのような体験を客観的に捉えることで、これまでより歴史を俯瞰できるようになる。

教師による生徒の評価も、ITを使って効率的に行われていた。この学校では、児童を評価する場合、「経験と勘」に頼ることなく複数の教員がチームとなる。生徒1人1人の傾向をデジタルデータを見ながら複数の目で丁寧に成長のプロセスを重視しながら分析し、個々に合わせた教育内容を検討していた。日本であれば、クラスの担任教師や、教科担任が1人で評価を行うケースもあるので、これも日本ではお目にかかれないケースで、筆者は驚いた。

さらに、この学校では、年齢を超えた複式授業で、ネットを使い、クラウド上にデジタルデータを共有して活用する授業が行われていた。ネットの翻訳機能やパワーポイントを使って、日本の良さを日本語で発表するという「おもてなし」があり、筆者は心打たれた。

歴史の授業も、筆者へのプレゼンも、「アウトプットするために学ぶ」という方法がとられ、子どもたちの学習意欲を高めていた。こうした教育を日本の学校でも行うべきだろう。

日本の教育には創意工夫の機会が足りない

国際NGO「オックスファム」によると、世界で1年間に生み出された富(保有資産の増加分)のうち82%を、世界で最も豊かな上位1%が独占しているという。この状況は歓迎できないものの、資本主義では教育を受けさえすればどのような階級にあっても能力や地位、個人の資産も向上して行くというパターンがあることも事実である。

これまでの経済の方程式が成り立たなくなってきている今、日本がまずやらなければならないことは、時代にフィットした新しい教育方法にシフトし、そこに資本を集中することである。IT産業が成長を続ける現代においては、日本の企業もITに関する教育に積極的に関与すべきである。

シアトルでの起業の活性化から日本が学び取れるもの、それは、まず教師が授業や評価においてITを駆使できる「教育イノベーター」としての能力を持つことである。また、子どもたちにクリエイティブな活動をさせることはもちろん、積極的に学校自体がファンディングも含め、創意工夫を行うことであろう。

(文中敬称略)

上松 恵理子 武蔵野学院大学准教授

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うえまつ えりこ / Eriko Uematsu

新潟大学大学院情報文化研究科修了、新潟大学大学院後期博士課程修了。博士(教育学)。東京大学先端科学技術研究センター客員研究員、早稲田大学情報教育研究所招聘研究員、東洋大学非常勤講師、「教育における情報通信(ICT)の利活用促進をめざす議員連盟」有識者アドバイザー。専門は、モバイルメディアコミュニケーション、ICT教育、メディアリテラシー教育。近年では主に、世界の最先端のICT教育やプログラミング教育の調査を行う。また、日本の教育についても、教育現場にいた経験から多角的に調査研究を行っている。共著に『小学校にプログラミングがやってきた!超入門編』(三省堂)など。公式ホームページはこちら

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