世界の経営者たちはなぜ「アート」を学ぶのか

「直感力」を磨くことが仕事で重要になる根拠

グレアム氏はアメリカの企業「Yコンビネーター」の共同創業者だ。同社は2005年にカリフォルニアのマウンテンビューで立ち上げられたアクセラレーターだ。アクセラレーターとは一般的に、起業家や創業直後の企業に対して、事業を成長させるための資金・人脈紹介・助言などの支援を行う組織をいう。

そしてアメリカの経済誌『フォーチュン』の言葉を借りるなら、Yコンビネーターは「世界最強のインキュベーター」である。Dropbox(ドロップボックス)やAirbnb(エアビーアンドビー)をはじめとするスタートアップ1500社以上に投資し、株式売却(イグジット)した企業の時価総額は850億ドルに達している。

だが、私が彼を面白いと思うのは、起業家・ベンチャーキャピタリストとして成功しているからではなく、絵画を学んだからだ。グレアム氏は、コーネル大学で哲学の学士号、ハーバード大学でコンピュータサイエンスの修士号・博士号を取得してから、絵の勉強をした。

ハッカーと画家は似ている

グレアム氏は若い頃からアートに情熱を抱いていた。伝えられるところによれば、博士号を取得後はコンピュータサイエンスで生計を立てつつ、絵を描いていこうと考えたそうだ。その思いは本物で、彼はイタリアのフィレンツェにある「アカデミア・ディ・ベッレ・アルティ」と、アメリカトップレベルの美術学校と言われる「ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン」で絵画を学んだ。このことについてグレアム氏はこう語っている。

「大学院でコンピュータサイエンスを修めた私は、絵画を学ぶために美術学校に入った。コンピュータに関心のある人が絵にも関心があると知って、多くの人は驚いた様子だった。ハッキングとペインティングは別物、つまり『ハッキングは冷静で、緻密で、論理的な作業、ペインティングは根源的な衝動に駆られた表現』と彼らは考えていたようだ。だが、このイメージはどちらも正しくない。ハッキングとペインティングには共通点が多数ある。実際、私はいろんなタイプの人を知っているが、非常によく似ているのがハッカーと画家だ」

自身もハッカーであり画家でもあるグレアム氏に、さまざまなアイデアを提供してくれたのは、計算理論ではなく絵画だった。ハッカーと画家の共通点は「何かをつくることを目指し、よいもの、美しいものをつくるためにインスピレーションを必要としていること」だ。

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