ポルシェは電動化しても稼ぎ続けられるのか 2025年までに全モデルの5割の電動化目指す

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ポルシェの主力SUV「カイエン」。ポルシェの世界での年間販売台数は約24万台と限られるが、顧客のロイヤルティは高い(記者撮影)

電動車の普及段階にもかかわらず、ポルシェが有料での充電サービスを展開できるのは、これまで培ってきたブランド力があるからだ。価値あるものにはカネを惜しまないという、「有料化」に抵抗の小さい顧客層を持つポルシェのようなプレミアムメーカーは、当然サービスでの収益化もやりやすい。

加えて、ポルシェの最大の強みは、充電設備の開発を自ら手掛け、世界中に展開を図れるだけの技術力を有している点だ。テスラも独自の充電システムを持ち、蓄電池ビジネスを展開しているが、充電規格については他社とは協業していない。一方、ポルシェは自らの技術を電動車の普及に活かそうとしている。

電動化以外のサービスについても前のめりだ。「自前だけでなく、カーメーカーやテック企業などの他社を巻き込んで展開していく流れは加速していく。フォルクスワーゲングループとしても、すでに数多くの企業やベンチャーと話をしている」(メシュケ氏)。すでに定額でポルシェの車両を乗り放題できるサブスクリプションサービスなどを展開している。

創業者もEVを開発していた

ポルシェは、電動化への方針転換に伴い、ディーゼル車開発からの撤退も発表した。ポルシェのブランドを培ってきたレースの世界でも、F1(フォーミュラ1)やWEC(世界耐久選手権)からの撤退を表明し、EVのレースであるフォーミュラEへ全力に注ぐ方針を発表している。

そうはいっても「メカ好き」なファンに、ポルシェの方針転換は本当に受け入れられるのだろうか。ポルシェの車から音が消えてしまったらどうしよう、と心配していた社員の1人はこう話す。「聞くところによると、電動車のメカニクスを生かした、すばらしい音がするように仕上げているようだ。心配していたけれど、それを聞いて安心している」。

80年前にフェルディナンド・ポルシェ博士が開発したEV。充電には数日かかったという(記者撮影)

タイカンは、ポルシェの創業者のスピリットが電動車に引き継がれるという点でも、失敗は許されない重要な車種だ。実は1930年代、フェルディナンド・ポルシェ氏は、EVを設計・製造したことがあった。そのときと同じ「スポーツカー」の哲学が、新たなタイカンにどのようなかたちで宿るのか。ファンは心待ちにしている。

森川 郁子 東洋経済 記者

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もりかわ いくこ / Ikuko Morikawa

自動車・部品メーカー担当。慶応義塾大学法学部在学中、メキシコ国立自治大学に留学。2017年、東洋経済新報社入社。趣味はドライブと都内の芝生探し、休日は鈍行列車の旅に出ている。

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