いい年になったら「行きつけ」の居酒屋を持て 酒と一品頼んで、群衆の中の孤独を楽しむ

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──秋後半の50代になると冬が目前に見えてきて、今のうちから仕事以外の何かを見つけなきゃ、趣味は? ボランティアは? と焦りだす人、結構多いと思います。

50代はいちばん悩みの時期ですよ。以前、「生涯飲酒計画」というのを書いたんです。夢、野心、自負、不安、孤独の20代は「熱血の酒」。最盛期の30代は「仕事の酒」、仕事に猛進してきた毎日を一段落させたくなる40代は「親交の酒」。そして50代は「孤独の酒」。

サラリーマンならば定年、子どももそろそろ結婚。ふと気がつけば、自分を取り巻いてた人々、環境がすべて去り、古女房と2人取り残されている。否応なく人生のむなしさに直面させられ、精神的に非常に不安定になる。頼りは酒だが、その味は苦く酔いも早い。

60代、70代のお酒は…

60代になると、危機を乗り越え客観的に自分の人生を見いだす「悟達の酒」。そして僕は70代、頼りにされ気も引き締まるが、張り合いもある。酒とはいいものだとしみじみ思う「滋味の酒」……。これ、40代前半で予想して書いたんです。それが実に当たってた(笑)。

太田 和彦(おおた かずひこ)/1946年生まれ。東京教育大学(現・筑波大学)卒業後、68年資生堂宣伝部に。89年独立しアマゾンデザイン設立。2000〜07年東北芸術工科大学教授。著書に『太田和彦の居酒屋味酒覧』ほか。BS11「太田和彦のふらり旅 新・居酒屋百選」などのTV番組も。(撮影:梅谷秀司)

1人で行くのに居酒屋ほどいいところはなくて、お酒と一品ぐらい置いとけば長居していいわけです。1人になると自分を考える。1人でいることに耐える練習にもなる。

うなぎ屋とかレストランだと、食べ終わってじっと座ってたら「何か?」と聞かれるし、家だと「どうしたの?」と言われる。居酒屋だといろいろ考えてるうちに、酒の力で無の境地になる。そこで浮かんでくるのはただ1つ、「次、何注文しようかな」。それがいいんです。群衆の中の孤独を楽しむ。

──いい居酒屋の外観って、何か特徴あるんですか?

ありますよ。一軒家で2階が住居とか、家族経営らしい小さな店。5時開店に4時半から常連が来ちゃうような店は必ずいい店です。その土地で何年にもわたって商売を続けてきたというのは、信用の置ける証拠だから、あざとい商売をしない。しかも安くてうまいから毎日でも行ける。

そういう店に入るともう安心。ネットのグルメサイトなど当てにならないので、昼間自分の足で街を歩いておくことですね。夕方早い時間から仕込みをやってるところ。外に花や植木があって水やりしたり、打ち水したり、そういうところはいいですね。

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