いい年になったら「行きつけ」の居酒屋を持て 酒と一品頼んで、群衆の中の孤独を楽しむ

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僕にとってのいい居酒屋は、40代は“いい酒、いい人、いい肴”だった。今は基本的な仕事をちゃんとしてくれれば、もう珍しい肴とか料理の技とかどうでもよくなった。居心地がいちばん。居心地とは店の主人と客筋。主人と客が長年かけて培ってきた、その店独特の風格。そこに自分も交ぜてもらう。

──いい歳になったら行きつけの居酒屋を持て、と。

まあ場数と経験は必要です。女性なら女将(おかみ)さんのいる店に行けばいい。あるいは主人と奥さん。女将さんは必ず1人客の女性を大事にしますよ。見慣れない女性が1人で来ると、「こっちいらっしゃい、さあどうぞ」と言ってくれる。最近は女性の1人飲みをよく見かけますね。姿勢よくカッコよく飲んでる姿は、見ていていいもんですよ。ほかの男客も茶々入れないし。

誰かと話をしたければ、店主に限るね。店のご主人や女将さんは客相手に慣れてるから、余計なこと聞いてこないし、表面的な会話でいい。京都の店が優れてるのはそこ。上辺だけってことをとても大事にするから。居酒屋のカウンターで本音吐いてる客は、野暮なお人や、って相手にされない。

──お客側の器もいる気がする。上級者でないと難しいのでは?

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居酒屋は確かに人の器を見ます。だからいいんです。客はそこで器量を磨く。でもそれは難しいことじゃなくて、要は静かに端然と、おとなしく飲んで、サッときれいに勘定して帰ればいい。最初は話をしようなんて思わず、ごあいさつ程度。いい店だな、自分と馬が合うなと思ったらまた行って、3回も通えば常連。きれいに飲んで帰る人と覚えててくれるから、向こうも安心、こっちも安心。「はい、いらっしゃい! こちらのお席でしたよね」と案内してくれますよ。

──読者に味わってほしい点は?

酒が人間を創る、だな。無理して言えばね。「自分の人生、これでよかったんだろうか」と立ちすくんでいるような方に、読んでいただけたらうれしい。自分を知るためには1人になるのがいちばん。1人の時間を持つには、居酒屋ほどよい場所はないということです。自分を見つめる、向き合うことに慣れてしまうと、生きてるって楽しいことだなって必ず気づきますよ。

50代以降は得るものより失うものが多くなる、って嘆きも聞くけど、失うものが多いほうがいいんです、楽になるから。裸一貫、身一つの心地よさ。酒ってうまい、人生って面白いものだなって。得るものはない、ただ深まっていくだけ。仙人のように生きると楽ですぞ。

中村 陽子 東洋経済 記者

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なかむら ようこ / Yoko Nakamura

『週刊東洋経済』編集部記者

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