過激な部活動が「ほどほど」にはならない理由 「やるか」「やめるか」の極論の前に考えたい

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企業では最近、働き方改革の発想が広がり、長時間労働ではなく、時間当たり生産性を重視する動きもあります。一方で、売り上げや利益といったわかりやすい指標のない教育現場では「ひたすら頑張ること」が評価基準になることが多いです。

保護者や社会からの期待

部活をやめられない理由として、最後に考えたいのは、③保護者や社会からの期待です。

複数の地域で先生から寄せられた意見に「部活の大会でよい成績を出して、それを保護者や地域にアピールすることが定着している。学校の評判につながるため、やめたくてもやめられない」というものがありました。高校の場合、学力が同程度であれば、部活が盛んな学校は人気が出る、という事情もあります。

最後に指摘したいのは、部活がこれまで果たしてきた教育・福祉的な機能です。「部活指導がなくなると、生徒は自費でレッスンを受ける。家庭の経済状況により、払える子と払えない子に分かれてしまう」という意見を複数の先生から聞いて、深刻さを感じました。一般的に言って、公立学校の先生は「公平性」「平等」や「格差を減らすこと」に関心が高いため、こうした課題が気になるのだと思います。

実際、ある先生は、自身のお子さんが入っている部活で先生による指導が少なく「試合で勝つために、友達と一緒に民間のスクールでレッスンを受けている」と言います。その先生自身は、家庭の事情で部活指導が難しく、職場でプレッシャーを感じているため「部活指導ができない先生の気持ちはよくわかる」と話していました。

要するに公立中高の部活は、多くのティーンエイジャーに、充実した放課後を過ごす場と機会を提供していたのです。ユニフォームや道具や、試合の遠征に出掛ける交通費はかかりますが、日々の練習に使う場所代や指導してくれる先生に月謝を払うことはありません。つまり、指導にあたる先生の献身という無償労働によって、家庭の経済状況に左右されず、10代の子どもたちの居場所と課外活動の機会がもたらされていた、ということになります。

ちなみに、スポーツ庁や文部科学省初等中等教育局長などは、今年3月、連名で運動部活の適正化に関する「依頼」を学校に向けて出しています。それによると、部活指導の手当は土日4時間程度で3600円となっています。地域によりますが、時給換算すると最低賃金を下回っており「労働」とはみなされていないことがわかるでしょう。

加えて、就職実績のいい工業高校では「採用する企業から、部活に打ち込んでいた生徒、部活で実績のある生徒が欲しい」と明確に言われるそうです。これは大学で体育会系が有利とされる事情とも通じるかもしれません。

いずれにしても、中高の部活について考えるときは「それが担ってきた機能はいったい何なのか」「それは、誰のいかなるコストによって賄われてきたのか」を知る必要があります。

極端な長時間の活動や体罰は、子どもの人権の観点から許容されないことは当然です。そのうえで、これから部活自体をどうしていくのか。極論に走らず保護者も一緒に考えていきたいところです。

治部 れんげ ジャーナリスト

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じぶ れんげ / Renge Jibu

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。日経BP社、ミシガン大学フルブライト客員研究員などを経て2021年4月より現職。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員、日本ユネスコ国内委員会委員、日本メディア学会ジェンダー研究部会長、など。一橋大学法学部卒、同大学経営学修士課程修了。著書に『稼ぐ妻 育てる夫』(勁草書房)、『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版社)、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館)、『ジェンダーで見るヒットドラマ―韓国、日本、アメリカ、欧州』(光文社)、『きめつけないで! 「女らしさ」「男らしさ」』1~3巻(汐文社)等。

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