人工知能は「役立たず階級」を生み出すのか 「ホモ・デウス」が示唆する人間不要の未来

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ハラリは、人類は農耕を始めたことによって、狩猟・採集社会の「アニミズム」を捨て去り「有神論」を採用するようになったと指摘している。前者は、大地や森、動物など森羅万象に霊魂が宿っているとする信仰だ。後者は地上で霊魂を宿しているのは人間のみであり、神聖で絶対的なのは天上の神(神々)だけだとする宗教である。

動物には魂がないので、動物はただのエキストラにすぎないことになる。

有神論の宗教の世界では、人間以外の存在はすべて黙らされてしまった。したがって、人間はもう木や動物と話すことができなかった。(ハラリ『ホモ・デウス』)

ところが、科学革命が起きると人類は「神々まで黙らせ」てしまい、「人間至上主義」の時代が訪れた。ニーチェが言ったように、「神は死んだ」のである。その結果、人類は幸せになれたか?

科学技術は本当に人類を幸せにしたか

1800年ごろに起きた第1次産業革命の後、労働者の暮らしぶりは悪化していく一方であるようにも考えられた。ところが、イギリスをはじめとする欧米諸国では徐々に労働者の生活水準は向上していったのである。

ハラリが『ホモ・デウス』の冒頭で述べたように、戦争と飢餓、疫病は克服されつつある。科学革命以前は、ペストによって死んだ人の亡骸が街中を埋め尽くしても、神に祈るよりほかなかった。だが、今日ではペストや天然痘はほとんど根絶やしにされているし、マラリアやエイズで亡くなる人も著しく減っている。

かつてなく、平和で豊かで健康的な生活を謳歌できる時代が訪れている。それでもニュートンのリンゴも毒リンゴになる可能性が十分あったことを指摘しておきたい。というのも、科学技術の最も恐ろしい成果である核兵器による人類絶滅の危機が少なくとも2回はあったからだ。

1つは、よく知られた1962年のキューバ危機で、もう1つは1983年にソ連のミサイル警報の誤動作によって引き起こされた全面核戦争の危機だ。誤動作だと主張して処罰された旧ソ連軍の当時の将校スタニスラフ・ペトロフは、「世界を救った男」と呼ばれている。

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