「アメとムチ」は実は人のやる気を破壊する 「営業成績が下がったら××」の脅しは逆効果

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8回スイッチを押すことはマウスにとっては途方もなく難しい課題ですが、「頑張ればなんとかなる」という環境です。だから、頑張りがいがありそうに見えるのですが、実は、そういう環境こそが生き物にとって最も過酷な状況なのです。

「8回押さなければ」という大目標を課されたマウスは、一切目標を課されずに「何をしてもダメ」という状況のマウス以上にストレスをためてしまっていたのです。

目標を設定することはやる気を促すための要諦ではありますが、大きな目標だけを与えられている状態では、しだいに頑張る気持ちが薄らいでいくばかりか、しだいに心身を崩してしまうことになるのです。

どうしたら目標にリアリティを感じさせられるか?

では、どういう目標設定であれば、やる気が湧き起こるのでしょうか。

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心理学では、「遠隔目標」と「近接目標」の2つに分けて考えます。「遠隔目標」とは、前に触れたような大きな目標のことで、遠くに立てられた旗のようなものを指します。それに対して「近接目標」とは、その立てられた旗へと近づくために、「今日は何をすればよいのか」「1週間でどこまで進めばよいのか」といった、いますぐ動くための具体的な目印のことです。

遠くの目標を目指すとき、それにつながるような「目下の目標」が与えられて、それをこなしていけば大丈夫だと明確に示される状況――。これが、誰にとっても必要なのです。

遠い目標は、近い目標とセットにして提示されなければ、ストレスが掛かるだけです。遠隔目標を与えたら、それにつなげるための近接目標も提示されることで、はじめて人はやる気を出し続けることができるのです。

植木 理恵 心理学者、臨床心理士

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うえき りえ / Rie Ueki

東京大学大学院教育心理学コース修了後、文部科学省特別研究員として心理学の実証的研究を行う。日本教育心理学会において最難関の「城戸奨励賞」「優秀論文賞」を史上最年少で連続受賞。現在、都内総合病院でカウンセリング、慶應義塾大学で講師を務める。また、「ホンマでっか!?TV」にて心理評論家として人気を博す。学術的研究にとどまらず、『本当にわかる心理学』(日本実業出版社)、『シロクマのことだけは考えるな!』(新潮社)など、一般向けに心理学を解説した著書多数。

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