安倍訪中で「協調」演じた日中会談の淡い成果 中国が前面に出したのは李首相というカード

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しかし、日中関係は複雑であり、今後もさまざまな問題が発生することは避けられない。そうなった場合、日中両国がどのようにそれを乗り越えていけるかが、肝心の問題だ。今回合意された諸事項はそれぞれ重要だが、安倍首相の訪中によって日本と中国が持続的な友好関係に向けて一歩前進できたか、いうなれば、簡単には崩れない”耐震構造”の関係になったか、という視点で見ていくことが必要である。

大きく言って、まだ問題は2つある。第1の問題は、市場経済を重視する日本企業と、政府との関係が密接な中国企業の間で発生する矛盾を最小化することだ。

今回の合意では、第三国における日中の企業・団体間の協力がクローズアップされたが、「日本企業と中国企業が協力すれば互いに足らざるところを補完し合って大きな力を発揮できる」という考えは、あまりに単純であり、楽観的である。

市場経済原理に忠実な日本企業と、そうでない中国企業との間で、協力が成り立つか、そもそも問題がある。たとえば、第三国で日本と中国の企業が協力するといっても、実際には意見が分かれたり、現地の政府と中国の企業が投資は適切だと判断しても、市場の論理と現実を厳格に見る日本企業は同意できなかったりすることがある。今回の合意では、タイの高速鉄道建設プロジェクトなど協力が困難と目される案件は初めから除外されていたようだが、52の合意プロジェクトについても日本の企業が不利な立場に置かれる危険がある。

問題が高じて日本企業が現地政府と中国企業から批判されることにもなりかねない。しかも、中国企業は中国政府の影響下にあるので、問題が生じた際、日本企業は中国政府との関係でも困難な状況におかれることになる。挙句の果て、「日中政府間で第三国協力を行うことに合意したのに、日本企業は消極的だ」などと、批判されるおそれもある。

「中国の特色ある社会主義」とは何か

中国政府が企業に対して強い立場にあることは、両者の関係にとどまらず、中国の政治体制に原因がある。だからこそ、中国の国家資本主義として問題視されるのだが、最近、この傾向はますますひどくなっている。

WTO(世界貿易機関)に中国は加盟する際、かなり市場経済化を進めたが、現在は国有企業がふたたび増加し、民間企業は圧迫を受けている。これは中国で「国進民退」と呼ばれている現象だが、それが復活しつつあるのだ。

しかも、中国は「中国の特色ある社会主義」を標榜しており、いざという場合、国際法や慣習に縛られず、独自の道を行くという立場である。これは世界中の誰からも認められない特異な考えだが、中国がかつて列強の帝国主義・植民地主義の犠牲になったという歴史的な原因から発しているので、簡単に解決できない厄介な問題になっている。

要するに、中国の企業は純粋な民間企業もないではないが、多くは国家の強い影響力の下にあり、本来なら自由主義経済でないのだが、市場経済を重視する各国の企業と同等の立場で、かつ、常識的には考えられない大胆さで活動している。採算を度外視して投資することも可能になっており、競争力が高まるのは当然だ。世界の自由主義市場経済体制は中国によって一種のひずみが生じているのである。このような非市場経済的側面は中国経済が急成長を遂げ、世界のどの国にも勝る巨大な市場をもち、GDP(国内総生産)は遠からず世界第1位になると予想されている中で、目立たなくなっているが、否定できない現実だ。

これに日本政府はどのように対応できるか。日本企業が不利な状況に陥らないよう不断に努めることが必要なのはもちろんだが、日本は各国と連携しつつ対応することが必要だと指摘されている。各国が協力して中国の国家資本主義に対抗し始めれば、極端な場合、中国に対抗する新しい仕組みを作ることにもなりかねない重大なこと。これは慎重に考えるべきであるが、そのような声が上がるくらい問題は深刻化しつつあるのだ。

では、第2の問題は、具体的にどうすべきかである。

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