今どき引く手あまた! 「経営人材」の転職事情

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 いくつかのIT関連会社を経て、現在は米国ソフトウエア会社の日本代表を務める山田正志さん(仮名、41)は「目標を設定し、その達成に向けてもがき苦しんできた。その経験が今に生きている」と語る。山田さんは営業職としてキャリアを重ね、現在の会社にもセールスマネジャーとして05年に入社した。それが昨年4月からは代表を任されている。

「もがき苦しんでいるうちに、新しい視点で物事を見られるようになり、打開の糸口が見つかる」(山田さん)。与えられた指示どおりに動くのではなく、自ら課題を設定し、解決策を発見していく。それこそが経営人材に求められる能力だ。

小規模ながらも組織のトップに立った山田さんが、今実感することがある。「会社の業績を上げるには日々の活動がすべて。だが、それを支える長期ビジョンは絶対に必要だ。当社で言えば『顧客のためになすべきことは何か』。トップがビジョンを熱く語らなければ、部下はついてこない」。マネジメント能力に磨きをかけて、どんな会社でも経営できるようになりたいと、山田さんは将来を語る。

坂井さんも山田さんも、30代での転職経験者。ちまたでは「転職35歳限界説」がまことしやかに言われるが「YESでもあり、NOでもある。マネジメント能力を身につけた経営人材なら、40代以降は逆に引く手あまただ」(井上氏)。

マネジメント力があれば転職年齢に限界はない

50代を目前にして、上場企業の広報部長に転職した鈴木佳子さん(仮名、49)。前の会社でも広報部の管理職を務め、子会社で社長の片腕として経営企画を担当した経験もある。

「40代ともなると、会社が自分に何を期待しているのか、会社における自分の“使いどころ”はどこか、経営の視点から考えるようになる。ただし、若手のように可能性に懸けたチャレンジングな人事は会社もできないから、おのずと選択肢は限定されてくる」と鈴木さんは語る。

それに対し、自分自身としてやりたいこと、自分のキャリアを新たな成果に変えられるのではと考える仕事もある。その両者を比較しながら、今後のキャリアを考えたとき「自分を活かせる仕事は広報だと思った」(鈴木さん)。ただし、元の職場に出戻りするのも本意ではない。鈴木さんの転職の決断は早かった。

「私のように50代を目前にして、自分のキャリア、生き方を見つめ直している人も少なくないのでは。自分の家もそうだったが、我々が生まれた時代は今よりも自営業の比率が高かった。必ずしも安定志向で育ってきたわけではないんですよ」と、鈴木さんは同世代の思いを語る。

転職の成功といえば、転職先企業の株式公開もその一つだろう。

下のグラフは、直近3年間で株式公開を果たした会社の役員のうち、90年代以降の株価急落局面(96~98年、00~03年)で、その会社に転職した人のプロフィールだ。前職で多いのは金融機関と卸売り。卸売りには商社が含まれ、財務や営業、経営企画に強い人材が求められている様子がうかがえる。

景気後退でシュリンクし始めた転職市場。だが、マネジメント能力を身につけた経営人材にとっては、まさに「ピンチはチャンス」なのだ。


(週刊東洋経済)

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