南インドの「美しい本」が人々を魅了する理由 本づくりの「あたりまえ」を実践する小出版社
タラブックスの創立は1995年。児童書専門の出版社としてスタートした。口述伝承を主としてきた文化の中で、インドでは絵本というもの自体が一般的ではなく、子ども向けの本の多くは海外から輸入されたものだった。タラブックスの代表であるギータ・ウォルフとⅤ・ギータも幼いころはソ連や東欧など外国の絵本を読んでいたという。
現在でも「絵本の読み方がわからない」という人は少なくなく、絵がある本を“ためにならない”と嫌がる親もいるのだそうだ。だからこそタラブックスを始めたときに、彼女たちが目指していたのは、インドの子どもたちのためのインドの絵本だった。
少数民族のアートを表舞台に出した功績
インドの美術というと多くの人が思い浮かべるのは、ムガル朝に代表されるような細密画や精緻な彫刻のようなイメージではないだろうか。だが、それはほんの一部に過ぎず、実際にはインドには多くの少数民族が暮らしており、彼らの社会環境、言語、文化は実にさまざまだ。
政府の定める公用語であるヒンディー語話者は全体の約30%にすぎず、公的に認められた言語が202、さらにインド全土では870、方言を含めると2000前後の言語が存在するといわれている。
タラブックスは創業初期から、その少数民族と一緒に本づくりをしてきた。長く社会から疎外され、目を向けられていなかった存在だ。『The Night Life of Trees』はインド中央部マディヤプラデーシュ州のゴンド族によるゴンド画。西部マハーラーシュトラ州のワールリー画の『Do!』、西ベンガル地方の絵巻物ポトゥを本に仕立てた『TSUNAMI』(日本語版『つなみ』・三輪舎刊)など、タラブックスの本に彼らの存在は欠かせない。
こうしたトライバルアートを表舞台へと連れてきたタラブックスの功績は大きい。昨年、『The Night Life of Trees』の画家のひとりであるバッジュ・シャームは、日本では国民栄誉賞に相当するといわれる最高の栄誉、パドマ・シュリー勲章をインド政府から受章した。おそらくタラブックスとの作品がなければ、彼が受賞することはなかっただろう。シャーム氏も「タラブックス以外では本はつくらない」と絶大な信頼を寄せる。
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