南インドの「美しい本」が人々を魅了する理由 本づくりの「あたりまえ」を実践する小出版社

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現在では、出版物はオフセット印刷と呼ばれる機械刷り、機械製本が日本をはじめ世界ではスタンダードだ。たとえ百冊単位であっても、オンデマンド印刷と呼ばれる少部数印刷システムがある。

シルクスクリーン印刷というのは、色の数だけ版を分けて、それを1枚の紙に重ねていく手法。こう書いてしまうとなんということもないようだが、それを1枚ずつ人の手で刷ることを想像してみてほしい。

たとえば、木の葉の緑で1回、幹の色で1回、木に留まる鳥の色で1回、文章の文字色で1回……こうして1枚の紙に色をのせて、たった1ページをつくる。1色刷るごとに乾かす時間がいる。色数が多くなれば手間もそのぶん倍増していき、色の重なりやインク汚れなど難易度も上がっていく。それが十数ページの本ともなると、もう気が遠くなるような作業でしかない。

82回の多色刷りが必要な絵本『夜の木』

多色刷りの『The Night Life of Trees』では、1冊の本を作るのに82回の刷りが必要とされる。この本は世界8カ国語で翻訳され、英語版だけでも発行部数1万冊を超えている。驚くべきことは、外国語版を含めたすべてのハンドメイド本が、わずか30人にも満たない工房から生み出されているということだ。それも、誰の手にも届くような価格で、誰も真似できないようなクオリティで。

少数民族に伝わる神話やインドの古典などさまざまなテーマ、アートから生まれた本(撮影:松岡宏大)

これはインドでだからこそできることでもある。だが一方でそうする必要もまたないのだ。もちろんインドにも日本と変わらないクオリティのオフセット印刷はあるし、実際にタラブックスの出版物の8割はオフセットで刷られている。

ハンドメイドブックにしても、もっと少部数にして単価を上げ、さらなる希少価値を付加することもできる。おそらくそれは難しいことではないし、経営的に見れば正しい判断とさえいえるかもしれない。

でも、タラブックスはそれをしない。そこに彼らをタラブックスたらしめている理由がある。

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