札幌の小さな本屋が見せた大きな「奇跡」 くすみ書房のオヤジが残したもの

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著者の故久住邦晴氏(撮影:クスミエリカ)

資金繰りに窮する日々。それでも、あるべき姿を追い求めて奮闘した、伝説の本屋の記録。『奇跡の本屋をつくりたい』の解説を書いた中島岳志氏に聞いた。

大手書店が扱わない本を売った

──著者の久住邦晴さんの一周忌に、遺稿を基に出版されました。

奇跡の本屋をつくりたい くすみ書房のオヤジが残したもの
『奇跡の本屋をつくりたい くすみ書房のオヤジが残したもの』(久住邦晴 著/ミシマ社/1500円+税/203ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

久住さんは時代と戦ってる人でした。2003年、まず「なぜだ⁉ 売れない文庫フェア」というのを始めた。これは小泉(純一郎元首相)構造改革のど真ん中。札幌も地元の本屋さんや小売店がナショナルチェーンに侵食され、弱肉強食、新自由主義の時代でした。その荒波の中で地方とか“小商い”とか、今後大切になっていくものを先取りしようとしていた。

たとえば、新潮文庫は売れてる順にS、A、B、Cとランク分けしていて、1501位~最下位は無印。大型書店はCランクまでは置くけど、無印本は置かないそうです。だったらこの無印本を集めてフェアをやろうじゃないか、と久住さんは考えた。開催中いちばん売れたのが下村湖人の『次郎物語』。だけど大抵の大型店は置いてない。置かないから存在しないことになる、そして本が死んでいく。これに「ちょっと違うよ」という流れを作りたかったのだと思う。

──久住さんとは地元財界のパーティで出会ったのでしたね。

北海道大学に赴任して数カ月、あいさつをしろと言われて出席したんですが、あまりに退屈で、1人ポツネンとしてたら、当時書店組合の理事長をしていた久住さんが寄ってきてくれた。「『中村屋のボース』を書いた中島さんですよね、何でいるの?」みたいな。「うちは本屋なんですけど」「どんな本屋さんなんですか?」「ちょっと変な本屋で」と話してくれた。

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